「うぁー」
背中にビリビリと電気が走り、ぶるっ、と身震いする。
「ウァン、ウァン」
と、犬が白い牙をむいて、今にも襲いかかろう、とする。
背中に汗が滲む。
「ウー」どうしょうか、どうしょうか、そうだ、石だ、子供の頃、お袋が尻から血を流して帰って来る俺に、犬に襲われたら石を投げよ!投げる真似でもいい、と言っていたのを思い出し、犬から目を離さず、ばっと、地面に手を付け、小石や砂利やら握ると、バッ、バッと無茶苦茶に投げる。すると、
と、唸っていた犬どもが、一瞬、前に出る足を止めた。
「しめた!」
と、すかさず石を拾い投げ続ける。ばっ、と地に手を付け、砂利を拾っては投げる。汗がボタボタと落ちる。大変な労力である。犬の足は止ったが、後ろには引かぬ、このままでは俺が参ってしまう。くそー、なんとかならんか、そうだ、動物は自分より強いものを恐れ、自分の身体より大きいものには向っていかぬはずだ。そうだ熊だ、熊になればいい、と、とっさにぐーっと背伸びすると、両手を高く掲げ、
「うぉー」
「うぉー、うぉー」と、腹の底から搾り出すような声をあげた。もう必死だ。
犬が吠えながら後ずさりし始めた。
「うぉー」「うぉー」
と、吠えながら前進する。犬がどんどん後ずさりする。
前に進む熊人間、それを取り囲み吠える数匹の野犬。どっちも必死である。
どんどん前進すると、犬が真横に見えた。吠えている。汗がボタボタと落ちる。喉が痛い。悲痛だ。
くるっと姿勢を変えると、今度は身体を後ろ向きにして進みながら「うぉー」と吠える。犬から眼をそらしたら終りだ。一勢に襲って来る。じぃーっと犬の眼を睨みつけ、両手を上げ、後ろ向きに歩きながら吠え、どんどんと犬との距離を開けていく。犬は小刻みに前進しながら、なおも、しつこく吠えるが、確実に距離は開いていく。
道がカーブになっていた。じわじわと後ろ向きになりながらカーブを曲ると、犬の姿が一匹、二匹と隠れていき、吠える声は聞こえるが、次第に遠くなる。僕は走らず、ひたすら両手を上げ、後ろ向きになって、真暗な闇の中を悲愴な声を上げ、いつまでも、いつまでも歩いて行った。
0 件のコメント:
コメントを投稿