2015年11月30日月曜日

九.オーストラリア編 Ⅱ 原始人の島-1


九.オーストラリア編 Ⅱ 原始人の島-1


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 オーストラリア、ダーウィン市をぐーっと廻り込んだカーペンタリア湾に浮ぶ孤島、グレートアイランド島。かつてのオーストラリア現地人の保護地区である。
アフリカ、ニューギニアと、黒人をいろいろ見て来たが、此処の原住民は黒人ではなかった。黒源人に近く、色の黒さは並の黒さではなく、焦げたように茶色っぽく、髪は白髪に近いグレーで、長髪にしていた。顔は、昔映画で見た「猿の惑星」に出てくるあの猿人の顔そのものである。猫背で背中が曲り、手足が異様に長く、人間の姿には程遠いものである。
 こういう顔にじーっと見られると怖いものであるが、向うの方も東洋人である僕が珍しいらしく、興味げに、じーっと見る。そんなに見つめられたら、恐いというのに・・・。
 風が強く、砂煙が立つ、バラックの立ち並ぶ道を歩くと、猿人らが、立ち止まって見る。回りから視線が集まる。
 彼らに見つめられると、故郷の野生猿を放し飼いしている高崎山へロッククライミングの練習へ行く時を思い出す。小道の両脇に何十匹もの猿が陣取って僕らの通路を塞ぎ、ボスらしい大猿が前方で、じーっと僕らを睨みつける。僕らは、なるべくうつむき彼らと眼を合わせぬようにして歩いてゆく。眼を合わせると、大猿が「キー」と言って襲って来るのだ。そういう時、僕らはすかさず持っていた爆竹を投げる。パン!パン!パン!と激しい音が山に響くと、猿どもは天と地がひっくり返ったように目ん玉をくるくる廻し、慌てふためき手足をバタバタさせて山奥に逃げまくる。

2015年11月27日金曜日

九.オーストラリア編 Ⅰ(ブリスベーンの星座-2)

九.オーストラリア編 Ⅰ(ブリスベーンの星座-2)


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彼女らは、とかく日本の事を聞きたがり、トウキョウへ行きたい、としきりに言っていた。
「一緒に踊らないか?」
と娘らが誘うが、自分より遥かにデカイ女と踊りなど踊る気もせず、しきりに断るが、断りながら彼女の豊満なバストに目をやっていた。押し潰されそうだ。
 オーストラリアの若者は非常に建設的で明るく、気候のせいであろうか、日本人のようにジメジメしたところがない。ジャパニーズがムーン(月)なら、さしずめ、オーストラリアンはサン(太陽)であろうか。
 明るい若者らと接するうちに、僕もすっかり打ち解け、ワァワァ言って太陽の子らに近づいた。彼女らは、大きく口を開けてよく笑い、真白い歯をキラキラと輝かせていた。
 夜も更けた通りを、若者らとメロディを口ずさみながら歩く。凄い星だ。夜空が完璧に開放されている。快ち良い風が何処からともなく吹き寄せる。道は広く何も居ず、未来の国に降り立ったような不思議な気分にさせられる広大な街の一夜である。

2015年11月25日水曜日

九. オーストラリア編 Ⅰ(ブリスベーンの星座-1)

九.オーストラリア編 Ⅰ(ブリスベーンの星座-1)


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ブリスベーンの街は道路が広く六車線はある。横断歩道がないのは道路の広さのわりに車が少ないからであろう。建物はほとんどがペッチャンコで一階建てが多く、歩く人々もゆったりとしている。
 海岸線はアフリカのモザンビークを思わせる白い砂浜が何処までも続き、大洋からの厚い波を打ち寄せている。空はコバルトブルー、何処までも澄み渡っている。
 オーストラリアに来て街の大きさのわりに人通りの少ないのに驚くが、ゆったりとした国全体がリゾート地のような錯覚におそわれる楽園のような国である。
 僕はさっきからビールが飲みたいのだが、なかなかビールに巡り合わぬ、カフェーがないのだ。むろん歓楽街のような所も見あたらぬ、薄暗い街を歩いていると、野犬に襲われるような気がしてくる。都会の中ではあるが、道路がとてつもなく広いので、暗い。草原を歩いているようだ。
 やっと、ネオンらしきものを見つけ、狭い階段を下ってゆくと、地下はダンスホールになっていた。若い女性らが踊っている。発育の良い身体つきで皆、僕より背が高く、横幅があった。その女性らが、派手に踊っている最中、とても奥のカウンターまで辿りつけそうにない。それでも、ビール飲みたさに意を決して歩き出すが、彼女らの発育の良さには圧倒されてしまう。
 ブルーやレッドの照明のチカッチカッとする中、僕の頭より遥か上で揺れるバストを斜めに見ながら、
「何を食ったら、あんなにデカクなれるのか、マトンか?」
と、ぶつぶつ言いながら彼女らの中を潜り、ようやくカウンターまで辿り着く。
 オーストラリアンが大きいことは知っていたが、僕より若い娘があんなにデカイとは知らなかった。パプア人の倍はあろう。栄養の良いもんである。
 楽しく踊る彼女らを眺めてはビールを飲んでいると、
「ハーイ」
と体格の良い二人連れの女の娘が話しかけて来た。二人とも金髪で胸がはちきれそうだ。紅く血色の良い顔はピチピチとして、“生きている”と、身体中で表していた。眩しい姿である。

2015年11月23日月曜日

八.スマトラと南十字星-5

八.スマトラと南十字星-5


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 以前、香港へ行った時、香港は岸壁は少なく船はほとんど沖荷役であった。荷役はジャンクという小さい帆船が幾度も来て行うが、このジャンクは大抵、家族で営んでいるが、あるジャンクの家族に利発そうで、とても奇麗な娘がいた。彼女は日本人と変りなく、僕より少し年下ぐらいで、日本の女子大生といった顔立ちの髪の長い娘であった。その娘が作業服を着て、顔を埃で汚し、荷にまみれながら働いていた。夜中じゅうである。
「可愛い娘だなぁ…」と、前々から思っていた僕はワッチ(見張り)の時、いつも彼女の廻りをうろうろとしていた。冬であった。風が冷たく凍えるようであった。「寒かろうに…
と、白い息を吐きながら働く彼女を不憫に思い、熱いミルクコーヒーを作って彼女のところへ持って行ってあげた
「寒いだろう…」
と言って、彼女に湯気の上るカップを差し出すと、彼女は、くゎっと眼を見開き、何ともいえないような眼をして僕の顔をみつめ、さっと僕の前から走り去った。
 その後、彼女は僕を避けるようになってしまい、お互い何も言葉を交す事はなかったが、僕はあの時の彼女の眼が忘れられなかった。
 彼女も年頃の娘である。日本では奇麗に着飾って花も恥らいもある年頃なのに、汚い格好をして埃にまみれて労働する時、たいして歳も変わらぬ男性からコーヒーを差し出され、自分が哀れみを受けている、と感じたのであろうか、彼女は恥かしさと、情けなさで胸がいっぱいになったのだろうか、あの時の彼女の眼は、僕がかつて見た事のない複雑な人間の感情を表していた。
 女性である。女性で生きる、ということが僕ら男が思ってもいないほど複雑である、ということを香港の娘の眼を思い出し、目の前に居るスマトラの娘を眺めながら、生ぬるい風に吹かれ、籐椅子に深々と座って考えていた。南十字星が良く見える、ジャングルに包まれた女達の館、中庭の光景であった。

2015年11月20日金曜日

八.スマトラと南十字星-4

八.スマトラと南十字星-4


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「あなた、あなた」
と、あなた、しか知らないあなたどもにもみくちゃにされ、車を降り
「こりゃ、すげぇ。女だらけだ」
と、相棒に言うと、相棒は、
「これだけ女ばかりだと気味悪いなぁ…」
と呟いていた。太った娘や小さい娘や、いろんな娘が僕の手を引く。歳は若い。結局、一番力の強そうな女に引っぱられ、相棒は?と見れば大柄な女が抱えるようにして連れて行っていた。
 僕が案内された部屋は狭く、散らかっていた。奥を覗くと、四・五歳の子供らが、二・三人居るので、
「うぁ、子供と一緒に暮らしているのか」
と、子供らの遊ぶ姿を見たら、急に色気もクソもなくなり女に金を渡して部屋を出た。生活がかかっているから強引なはずだ。
 表に出ると、今度は一番若そうな娘を選び、これなら子供はいまい、と部屋へ行き、いろいろと聞いてみることにした。
 此処の女達は皆、出稼ぎで、周囲の小島から来ているという。彼女もその一人で、此処でお金を貯めて、故郷へ帰って結婚すると言っていた。
「ふーん」という感じで便所へ行くと、裏は真暗で柵の向うはジャングルになっていた。何か?獣の気配がするようで、ゆっくりしゃがんでいられなかった。
 彼女らは明るくよく笑った。悲愴な感じはひとつもなかった。皆お金を貯めて田舎へ帰って結婚する、という目的があるらしく、何々さんは二年で幾ら貯めて結婚したとか、しきりに言っていた。日本の季節労働者みたいだが、結婚するのにそんなにお金はいらぬはずであるが、何か特別の儀式があるのか?それとも、この地方は女が男を養っていく土地柄だろうか?日本では到底考えられぬ事である。
 僕は世界中廻ったが、日本の若い娘ほど恵まれている娘はないだろう、と思う。皆、奇麗な服を着飾って旨いものを食って満ちたりた顔をしている。

2015年11月18日水曜日

八.スマトラと南十字星-3

八.スマトラと南十字星-3


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「汚いなぁ…」
 それでも冷たいビールが飲めるとあって待ったかいがあった。よくぞ氷を見つけてきた、とニヤニヤしている小僧に小銭をあげ、良い子だ、良い子だと頭を撫でていると、後ろでパッシューン、ゴボゴボと音がするので慌てて振り向くと、女がビールを洗面器の氷の塊に注いでいた。
「ああ、あ…あ…」
 僕は連れとは行動しない主義だが、船の仲間に、つい誘われてタラップ近くまで車を乗りつけたポン引きの運転する車に乗って遊郭へと向った。
 街を過ぎ、真暗なジャングルをドロンコの道を転げながら走って行く。熱帯特有の濃い緑の広い葉が窓ガラスを叩く。「ギャッ」、「グウェッ」とえたいの知れぬ動物の鳴き声がする。
「何処へ行くつもりだろう?」
とだんだん不安になってくる。
 運ちゃんが、このあたりはハリマオー(スマトラのトラ)が出るから、と言ってスピードを上げ、ガタガタと車を揺らして突っ走る。
「おい、女と遊ぶのも命がけだなぁ」
と、友人に声をかけると、彼は青くなっていた。
 真暗いジャングルをぬけると、目の錯覚か?赤や青のネオンが見えた。驚く事にこのジャングルの山奥に電気がある。自家発電であろうか?闇のジャングルから、一気にチカチカ輝くネオンを見て、目がぼわーと霞んでくる。悪い夢を見ているようだ。
 国境線にあるような黄と黒の遮断機があり、運転手の顔を確認すると、「ギィー」といって台が上る。中には木造の家々がぎっしりと並び、一軒一軒の家の前に椅子が置かれ、女らが涼んでいた。売店も幾つかあった。
「へぇ!?街のようになってんだなぁ」
と思わず感心してしまう。男は居ない。女は百人近く居るという。ハリマオーの薄暗いジャングルに比べると、パラダイスだ。世の中、いろんな世界があるもんだなぁ、とほとほと感心していると、車に女達がむらがって来た。ひさしぶりの客らしい。

2015年11月16日月曜日

八.スマトラと南十字星-2

八.スマトラと南十字星-2


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 デュマイの街は、東南アジア特有の騒めきがある。この街には輪タクが走っていた。客を一輪車の座席に乗せて自転車を漕ぐわけだが、この一輪車、前に人が乗り、後ろに麦わら帽をかぶったおっさんが自転車を漕ぐもんだから、乗ってみると、実に怖い。対向車線などないこの街は、前から車が、ヴォーン、と走って来る。
「わぁー」「わわわ」
 ブォー、グォーと、目の前から車が向って来る。こんなぶっそうなものに乗れるもんかと、
「おい、親父、降りろ!俺が運転してやる」
と、親父を前の座席に乗せてペダルを廻すが、ペダルが重い。重心が前にあるのでハンドルが切りにくいのだ。ふらふら、ぐにゃっと運転すると前からどんどん車が向って来る。
「うひゃー」「うぇー」
 今度は親父が前で叫ぶ。どうだ、人の気持ちが分かったろ!とペダルを踏み続ける。
 鼻髭を生やした東洋人が、現地のおっさんを乗せて輪タクを走らせているので、街の人が、なんだろう?と、不思議がって皆んな見ているが、
「いやぁ、なかなかの市内観光、運動にもなる」
と、僕はすっかりごきげんである。
 この街では実にいろんな物を食った。訳の分からぬ料理は油っこく、こくのある味をしていた。
 街のポン引きに誘われるまま、つい、入ってしまった納屋のような女郎屋で、
「暑い暑い。おい、ビールを持って来い」
と、藤の団扇で扇ぎながら叫ぶと、イカリソースの瓶みたいな瓶に、また訳の分からん文字を書いたビールを持って来た。ぬるい、というより熱かった。
「こんな、ぬるいビールは飲めん、冷たいやつはないんか!」
と、また叫ぶと、
「ワワワワ」
と店の女が小僧に何か言う。
 しばらくして、小僧が走って帰って来たので見てみると、金属の洗面器の中に氷が一塊入っていた。懐かしい、子どもの頃、かき氷屋で見た氷の塊だ。よく見ると、中に藁やら何やらようけ入っている。

2015年11月13日金曜日

八. スマトラと南十字星-1

八.スマトラと南十字星-1


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インドネシアのスマトラ島南東にデュマイという街がある。僕はこの街と日本とを往復する事になった。
 岩壁の対岸には蟹喰い猿と名づけた手の長い猿がバチャバチャと水の中に入り、蟹を取ってはムシャムシャと食っていた。
 この蟹喰い猿、蟹ばかり食っていれば良いものを船に忍び込んでは食い物を漁る。頭にきた僕らは猿が入って来たのを確かめると、タラップを上げて彼らを追い廻す。逃げる猿を追って船内をぐるぐる廻ると、猿はついに岸壁に張ったロープを伝って逃げようとする。が、素早く仲間が岸壁へ先廻りする。こうして船にも岸にも行けなくなった猿にロープをプラーンと緩めて縄跳びの縄みたいにたるませてから、プーンとロープを跳ね上げると、猿はロープにつかまったまま止っていて、それからボチャーンと海に浸かる。猿はロープにしがみつく。海に落ちるか、ロープに振られるか、だ。ビューン、バチャーン、根性、根性。
 動物愛護の人が聞いたら怒られるような話である。が、そういう僕らも彼らに食べ物をやったりしてけっこう可愛がっていた。
 また、別に猿ばかり苛めて喜んでいたわけではない。現地でアルマジロという蟻喰いを買った僕は可愛がっていつも連れて歩いていた。長い尾っぽで、眠る時はまん丸のゴムマリみたいになる奴で、とても可愛いもんだった。こいつは蟻しか食わず、蟻の傍へ行っては自分の身体の半分はあろう長い舌をベロンと出しては蟻を食う。のたぁり、のたぁりと歩くぶきっちょな姿は原始以来、進化を忘れたのんびり生物の姿であった。
 こののんびりさんの航海中の餌の確保が大変で、出航前に慌てて蟻を集めて廻るが、めんどくさいので現地のガキにこずかいをやっては集めさせていた。蟻こそいい迷惑だと逃げ廻っていた。飼い主に似た、のん気な僕のペットであった。

2015年11月11日水曜日

七. ニューオリンズ、ジャズの嵐

七.ニューオリンズ、ジャズの嵐


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パナマをぬけると、一気にカリブ海。透き通る透き通るエメラルドグリーンの海。陽は眩しく、風は軽い。
 メキシコ湾を北上すると、ジャズの街、ルイ・アームストロングの街、ニューオリンズである。ミシシッピ河を逆昇れば、木炭船が行き来する。長い煙突の突き出た箱のような船である。
 憧れの街には、客馬車が走り、白馬がカッポカッポとひづめを立てている。長いシルクハットをかぶった白髪のブラックマンが黒いスーツを着て馬を引いて行く。街は南部の薫りがあり、道ゆく人ものんびりとして、アメリカ独特の雰囲気が漂っている。
 薄暗くなりかけると、何処からかジャズの音が聞こえてくる。ペットの響きに惹かれるまま歩いて行くと、古い木造の西部劇そのままの酒場があった。長いカウンターに腰かけ「ワン・ビアー」と、五十セント銅貨をパチンと置けば、すぅーと細長いカウンターの上をコップに注がれたビールが走ってくる。泡が丁度良い量だ。後ろの座席で黒人らがトランプをしている。店員もすべて黒人である。
 ステージで白髪のオールドマンが身体をくねらせペットを鳴らす。目を閉じ、酔うようにペットを吹き鳴らす。僕もしだいに酔いが廻り、身体を揺さぶる。老人の額に汗が滲み、サックスが加わり、ベースが加わり、しだいに調子が出てくる。あたりはもう完全に暗くなり、あちらこちらとジャズの音色が響いてくる。店を出れば、隣、その隣と、すべての店で生演奏となり、心地良い音が重なり合い、目がうつろとなる。
「こりゃ、いいで、今夜は最高!」
と、すっかり、ごきげんで、乗った気分で肩を揺らして人波に混ざると、酒場の前で、黒人の子供らがタップダンスを踊っている。全員つなぎのジーンズを履き、飛び跳ねたり、宙返ったりと、快適に踊っている。リズムは酒場から流れるジャズの生演奏。逆さに置かれたシルクハットにコインが投げられ拍手が響く。汗びっしょりの子供らだ。
 店に入るたびに、ムッと熱気がする。モヤモヤとむせる煙草の煙の奥で、熱演するジャズマンたち。年老いた肉体のどこからあのパワーが出るのか、と思う程、ペットをサックスを吹きあげる。ビンビン響く熱演の連続で熱気が飛び交い肌に染み、一種独特、妖気なムードが漂う酒場の空間である。
 百年、逆昇った、開拓アメリカ、南部の世界へと迷い込み、理屈もなにもない、熱気だけの世界に酔いしれる。ニューオリンズの蒸し暑い夜であった。

2015年11月9日月曜日

六. 運河を越えて

六.運河を越えて


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カナダ、アメリカの西海岸を廻り終えた後、僕の乗る船は、パナマ運河へとさしかかる。
 米空母、ミドウェーが船体すれすれに運河を航行する。巨大なビルディングのように運河に聳え立つ空母。次から次と、真黒い潜水艦が浮上する。第七艦隊の大パレードである。
 ようやく、僕らの船が岩壁に長いロープを投げると、インデオがウィンチへと掛ける。ぐぐっと船体が揺れ、巨大な水路へと引きずり込まれる。
 水路の喫水を調整しながら水門を出ると、湖のように透き通る美しい運河を進む。青々と茂る樹木、水の上に森があり、森の下に河が流れる。樹木や草、すべてのものが水の中から生え茂っている。キラキラと陽に照らされ、眩しい眩しい光景である。
 パナマの街は東南アジアのようにざわめき、騒がしい雰囲気が漂っていた。日本の漁船らが給油のため、よく滞在するこの街は、歩けば日本語で声をかけられる。
「あなた、スケベーヨ」
「あなた、あなた」
 陽が暑く照り、額からぼたぼたと汗が落ちる。市場へオームを買いに行こうとするが、ポン引きや女らがむらがってくるのだ。日本語の流暢そうな女に
「オームは何処で売ってるか?」
と尋ねるが、
「オームはスケベーよ、あなた!」
と、全然話にならない。スケベーしか知らないようである。
 ようやく、見つけた市場は大混雑で子供が、四、五匹のオームをカゴに入れて売っていた。
「ハウ、マッチ?(幾らだ?)」
と、尋ねると、回りからワイワイ言って人が集まって来て「幾ら、幾ら」と指を曲げる。お前らに聞いてるんじゃねぇ、この子に聞いてるんだ!
「何か喋れるか?」
と子供に尋ねると、
「ヤーヤー、セニョール、何でも喋るよ!」
と答え、オームに向って、
「セニョリーター、セニョリーター」
と言ってみる。すると、赤じゃ青じゃ黄色じゃと、尻尾が長くて派手なオームは、目ん玉をくりくりさせながら、
「ギャーグァー」
と、ジャングル語で叫ぶ。
 何も喋れねぇじゃねぇか。

まぁ、気長に教えれば何か喋りだすだろうと、オームを抱きかかえ船へ帰ろうとすれば、原始人のオームが急に日本語で喋りだす。
「あなた、何するか?」
「あなた、何処行くか?」
「あなた、スケベーよ」
 何処へ行こうが、何をしようが、俺の勝手だ。ほっといてくれ!

2015年11月6日金曜日

五.アラスカの夏-4

五.アラスカの夏-4


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ようやく着いた港へ降りると、何事もなかった様に象の鼻のような機械から、船倉へチップが流し込まれていた。喫水は下り、船体はだいぶん沈んでいた。皆に見送られながら船のタラップを昇っていくが、足が重く、この地に未練が残った。
 幾日かして、忙しい出航準備をなんとなく惰性で終えると、ぼんやりと岸を眺めていた。すると、車が近づき、止まったかと思うと、人が近づいてきた。キャッシーと友人の女の娘だ。隣町から駆けつけてくれたのだ。「見送りに来た」と言い、船内で食べてくれ、とサーモンの燻製を持って来てくれた。彼女の顔は赤く紅潮していた。僕にサーモンの燻製を手渡すと、
「今度、いつ来るか?」
と、尋ねた。目が大きく見開いていた。そのくるくると動く瞳を見ると、何も言えず、
「来年、雪が溶けたらだ」
と、嘘を言ってしまう。
 スタンバイの汽笛が鳴った。僕はおもわず彼女を抱きしめる。髪からは、やはり甘酸っぱい薫りがした。急に何か、込みあげるものがあり、もう、こういう事はよそう、と静かに思った。再び彼女を強く抱きしめると、「グット、バイ」と、言って彼女の手を握った。息が熱かった。彼女も、「グット、ラック」と言って僕の腕を強く握った。ゴールドのキラキラとする髪が潮風になびき、何本かの金筋が青い海を背に舞った。
 タラップを下る彼女の背に陽が射し、時折、振り返っては手を振る姿が何時までも、僕の前から小さくならなかった。
 キャッシーの立つ小さな岩壁を僕の船は離れてゆく。もう、おそらく逢う事のないキャッシーに幾度も手を振る。あの夢のような数日間を振り返り、振り返り、「さらば、アラスカ、さらばキャッシー」と呟いた。
 風が冷たく、アラスカの夏は終わろうとしていた。




2015年11月4日水曜日

五.アラスカの夏-3

五.アラスカの夏-3


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心地良い夕暮れ、僕は彼女と幾度も踊った。カセットテープから流れるディスコ調のリズムは若い僕らを酔わせた。あたりが暗くなりかけると、キャンプファイヤーの炎がバチバチと燃えあがり、見た事もない星座が幾つも輝いていた。
 彼女の長い髪からは甘酸っぱい薫りが流れた。田舎で育った彼女は都会の事を良く知らぬようであり、日本の事を話すと珍しそうに聞いていた。僕の英語がまずいのか、よく白い歯を出して笑っていた。
 翌日、僕らは長いカナディアンカヌーに乗り込むと、湖へと出かけた。水は滑らかだった。水面すれすれに浮ぶカヌーに乗って滑るように水を切って進んだ。僕はごきげんだった。目の前にキャッシーが居る。グリーンのダウンベストを着てカヌーを漕ぐ彼女の背にやさしい陽差しが射込んでいる。湖の奥へ奥へと入って行くと、水の色は深いブルーからコバルトブルーへと変わり、森から飛び立つ大きな鳥が幾匹も頭上を横切って行った。肌に染み通るような滑らかい涼しさが僕らを襲った。
 遊び疲れた僕らは、夕食の準備に取りかかる。誰かが奏でるギターの音がナレーションとなり、黄昏の湖畔にゆっくりと流れていた。
 すっかりキャッシーを気に入ってしまった僕は、このままこういう時間が何時までも続く事を望んだ。船に帰りたくなかった。このまま、このアラスカの地で生活したいなどとも思った。
 キャッシーが、「また、この街へ船で来る事があるか?」と、尋ねた。製材の過程で溜った木材のチップを、たまたま僕の乗る船が何年かに一度取りに来た街である。万が一にももう来る事はあるまい。
 キャッシーと離れたくない、と暗闇で彼女を抱きしめると、チャプチャプというさざ波の音だけが聞こえ、空には星が輝いていた。
 幾日か、皆で楽しく過ごしたバカンスは終わり、行きに乗って来た車へと乗り込むと、湖畔の曲りくねった道を通り、街へと向かった。皆、遊びくたびれて、ぐたっとなっていた。僕は流れる黄色い針葉樹と、チラッ、チラッと樹木の隙間から見える光る湖を、ぼんやり目を開けて眺めていた。

2015年11月2日月曜日

五.アラスカの夏-2

五.アラスカの夏-2


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「こりゃ、とんでもない車に乗ってしもうた」と、後悔するが後の祭りだ。他の人らは酔っているのか、慣れているのか、歌を歌いながら酔っぱらって運転する運転手のことなど、おかまいなしである。それどころか、女の娘が後ろの座席から運転する男に抱きついたり、髪の毛を引っ張ったりしている。
目がくらくらして酔いが廻ってきた。だんだん心地良い気分になると、このどうしようもない状態から逃れられない事を悟り、
「もう、どうにでもなりやがれ、俺りゃ運が悪かったんだ。こんな奇麗な所で死ねて本望じゃねえか!」
と、完全に開きなおってしまう。開きなおってヤケクソになると、急に元気になり、ワァワァ言って女の娘に抱きついたりしていた。
 眠っていたのか・・・・・・眼を覚ますとキラキラと輝く湖のほとりに横たわっていた。寝ている僕を覗き込むように、金髪の娘が
「食事ですよ」
と、声をかけた。
 だいぶん飲んだようだ。頭がくらくらする。痛む頭を押さえながら起き上がると、彼ら4人の他に若い男女が7、8人は居た。焚火をしてサーモンを焼いていた。
 湖畔であった。樹皮の付いたままのログハウスがあった。太いアラスカ杉を重ねて創った本物のログハウスで、こげ茶色の樹皮がびっしりと付き、防風のためであろうか、樹木と樹木の隙間に黄緑の苔をさし込んである。傍には手製のブランコが、やはり樹皮を付けたままの樹木で創られていた。
 湖畔から涼しい風が吹き、波がチャプ、チャプと、揺れていた。
「なんて、気持ち良い所なんだ・・・・・・」
と、先程の恐怖とは打って変った静かな湖畔に茫然と立っている僕に、髪の長い女の娘がバーベキューを持って来てくれ、「これから皆でダンスをする、一緒に踊らないか」と誘った。目がブルーで金髪の奇麗な娘である。ジーンズが良く似合うスリムなスタイルをしていて、名をキャッシーと言った。