2013年5月8日水曜日

81今どき破天荒な男達の物語

 僕たちの登るルートは十年来、通い慣れたキリッとした花崗岩の岩壁である。



 

二十代の前半、駆けるように攀じ登ったこの岩壁を、おっさんらがふざけあってわいわい言いながら登る。
 最近また太りだした中野のザイルを、クイックイッと引っぱると
「あ、ああ・・・」
と気味悪い声を出して、尻を突き出す。そして
「あんた、何にするんやねん?」
と、とんがらせた口の顔を向ける。
 かつての精鋭クライマーらが、うはうは言ってふざけながら登るのを、奇想天外の山さんも嬉しそうに見ていたが
「俺も、まだまだお前らには負けん!」
とか言って、クラック(岩の割れ目)に飛びついている。彼も若い。僕らと変わらぬようであった。
 
 岩峰の頂上からは高千穂の峰々が雄々と聳え、眼下にはブルーの河が流れる。
 僕らは此処にのんびりと腰掛け、少し遅い昼食を食う。皆、久しぶりのクライミングに満足げで穏やかな顔をしている。

 あれから、そう、皆んなと出逢い、ヨーロッパへ行き、それから・・・いろんなことがあったがもう十年以上は達っていた。

2013年5月1日水曜日

80今どき破天荒な男達の物語

 オカルト好きの山下の兄、山下氏は山さんと呼び易く呼び、その弟の山下は日頃は「チャンキ」という、あだながある。この名の由来は神秘的で不明である。

 こうして
「おーい さぶちゃん、白菜を切ってくれ」
「おい洋ちゃん、ビールを開けてくれ」
とか言って、僕らの宴会は盛り上がる。ひさしぶりに皆んな揃って楽しそうである。
十年の歳月は僕らには透明であった。皆、二十代前半の頃とひとつも変わらず、笑ったり笑
ったり騒いだりしていた。

 次の、ぱくん、と晴れた日曜日、僕らは登攀を開始するべくだらだらと起きる。
陽がかなり昇ったテントの前は車や人が行き来していたが、その道路脇の昨夜の宴会の跡はそれはすさまじいものであった。なにもかも食いちらかして、四方八方、食いかけの食料やコッヘル、ビール瓶なぞが散乱していた。
目を覚ました奇想天外の山さんがテントの中で、
「おい、起きろ!今日は天気が良いいぞ、今日は登るぞ!おい、俺は誰と組むのか?」
とか盛んに喋りながらテントから外へ出るが、
「あっ!」
と言って口を閉じた。
どうしたんだろう・・・?と思って見ているとしばらくして
「あまりの恥かしさで声が出なくなった」
と言う。
散乱した宴会の跡を、他のクライマーらが避(よ)けるようにして歩いていた。