2012年3月31日土曜日

32今どき破天荒な男たちの物語

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今どき破天荒な男たちの物語の1 



 また、彼は非情な程度胸が良く、雪道を車で走る時などもなかなかチェーンは巻かない。
山行の途中、路面にびっしりと雪が積もりだしたので皆んなでチェーンを巻こうと車を止めにかかると、後部座席から「かまわん、行け!」ともの凄い声を出す。が、彼も真冬、仕事の帰り、山道で田んぼに車を落としとぼとぼと歩いていたという目撃者もいる。

僕らが登山や遠征に行く時も少々危険な岩壁や山岳でも
「かまわん、行け、行ってみりゃなんとかなる」と言う。が、さすがに厳しい所になると
「おい、お前ら、今度は生きて帰れんかも知れんから子供でも残しとけ!」と独身の僕らに訳の分からんことを真面目な顔をして言う。
 彼は結婚する時、相手側の両親に猛反対されたので彼女を「これでもか、これでもかっ」と攻めまくり妊娠させ、その両親を「うむー」と唸らせたというエピソードも持つ男である。

 この奇想天外の山さん、人と話すのが大層好きで、建築工事で、知り合いの家や職場へ行くと話し込んで仕事にならない。以前、弟と同じように喫茶店をしていたことがあるが、「コーヒーを下さい」と注文する客そっちのけで、友人らと議論白熱をしていた。喋りだしたら止まらない性格なのだ。が、また話題も豊富で、おもしろいから人も彼と話したがるようであった。

 この話し好きの山さんを気に入ってか、哲学者竹本という、僕らより幾らか年上の哲学の研究をしている青年が、僕らの山行にちょくちょくついて来るようになった。彼は非常に痩せていたが、僕らが岩登りを教えてやると「死ぬー死ぬー」と言いながら本当に死にながら登って来ていた。難しい山ではないのでそう足手まといにはならなかったが、困ったことに僕らが街から離れ、山に囲まれ雄大な気分を味わっている時に難しい話をする。山さんがまた聞いてやるもんだから理屈ばかり雲の切れ間に並べやがる。
「おい竹さん、この景色を見てみろよ!哲学もクソも関係ないぜ!」と、青い空の中に浮かぶ山々を仰ぎながら言うと、彼もふっ、と黙りだすがまた一時(いっとき)したら喋りだす。





2012年3月22日木曜日

31今どき破天荒な男たちの物語

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 この奇想天外の山さん、絵画、音楽、読書とおよそ趣味と呼ばれるものは何でもする人で、スタイル、行いも若く、十才、齢の違う僕らとほとんど変わりなく生活している。この人、几帳面なわりにロスの多い人で、歯科技工師の三郎が免許を取り上げられた時に、「情けない・・・」と嘆いていたが、本人も若い頃、長らくヨーロッパへ行っている時に切り換えをせず免許を切らしていた。その後、車の免許は取ったが二輪の免許は取り直さなかったらしく、よく山の方で無免許でオートバイを乗り回していた。が、転倒して密かに病院通いをしていた。

 彼が家を新築した時、「日本人は、古来から、まず城を築きそれから戦に出る」と皆んなに言っていたが事情があり家を手放すと、「ジンギスカンは定着して亡んだ」と言っていた。
また、「お前ら、早く結婚して身を固めた方がいいぞ!」と皆んなに言い、夫婦仲が悪くなると「お前、結婚なんぞしない方がいいぞ、フリーが一番いいぞ!」としみじみ語っていた。

また、真冬、かなり冷え込み、近くの滝が凍った時であるが、運悪く仲間が皆動けず、どうしても滝を登りたかった僕は、知り合いの山岳会のリーダーと登りに行った。ところが、地元で無謀な登山をするという定評のこの山岳会と、パーティーを組んで登ったという僕の噂を聞いた奇想天外の山さんは、「お前、彼らと一緒に山へ行くな!彼らがどういう登山をするか知ってるか!命を失うぞ!今度一緒に行く時はクラブをやめて行け!」とこっぴどく怒られた。が、後(のち)、海外遠征でトラブルがあり、その山岳会のリーダーが一人、彼を援護した為、山さんはすっかり彼に恩義を感じているようであった。

 ある時、僕とこの二人で酒を飲んでいると、「そういえば、みつる君は俺と山へ行きたがらないなぁ、俺はお前を気に入っているのにお前は俺が嫌いなのか?」と言うので僕は返す言葉もなく下を向いてもじもじしていると、山さんが大きな声で、「そうだ!みつる、お前何故?~さんに連れて行ってもらわないのだ。~さんと行ったら勉強になるのに馬鹿だお前は!」と息巻いていた。両人から攻められ僕は何も言えず、黙って酒を飲んでいた。これを僕ら仲間では“必殺”もしくは“伝家の宝刀”と呼び、何かの拍子に以前の話とコロッと違う話が出たら、僕らはニヤリと含み笑いを浮かべ、「おい!必殺が出たぞ!」と目で合図する。




2012年3月17日土曜日

30今どき破天荒な男たちの物語

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 さて、その北さんであるが、彼も毎晩毎夜飲みへ行ってるわけじゃなく、愛犬を風呂に入れる時は早く帰宅するようであった。彼の家には“マミちゃん”と言う白毛の大きなメス犬が居た。この犬を彼は溺愛しているらしく、一緒に布団に入って寝たり風呂に入ったりしているという。三十独身の北さんに中野がよく、「北さんとあの犬はどうも怪しいですよ」と訳の分からんことを言っていた。


やはり山の先輩でクラブのリーダーでもある、喫茶スイスシャレーの山下の兄、山さんは「あの犬が居る限り北村は結婚できん。皆んなであの犬を毒殺する計画を立てよう」と、また訳の分からんことを真面目な顔をして言っていた。
 この山さんは建築業で、しばらく北村宅へ改装工事に行っていたが、工事が終わり玄関でお母さんが山下氏に代金を支払おうと札を床の上に置くと、奥から「ワンワン」とマミちゃんが走って来て、床の上のお札をバッ、と前足で押さえたという。恐ろしい犬である。家族同様に暮らしているので、家から金が出て行くのが分かるらしい。「もう、ああなったら人間と変わらん、しかし、痺れた!」と山さんは感心していた。

 この山さん、オカルト好きの弟とは性格が違い、完璧な唯物論者である。理論家であるがその理論というのが変化の激しい理論で、その変わり身の速さというか、柔軟性にとぶというか大変なものである。僕らは“奇想天外の山さん”と呼び、その名の通り何をするにも何も言わず、誰にも相談せず、奇想天外を思いっきりよくさっ、と行動に移す。チベット遠征の時も、見送りに来たと思ったら列車に乗って手を振っていた。仕事も若い時から四十回は変えたらしい。それも会社でなく職種をである。「仕事が趣味や遊びだと思えば、一生のうちにいろいろやって、これ程楽しいことはない」のだそうだ。これを子供が三人も居て実行するところが“並”じゃあない。この人の哲学というのは、「なんとかなる、とにかくやってみよう、それから考えよう!」ということらしい。山でも事業でもすべてそれでクリアーしてきたという。
 彼は日本でも有数の登山家で、その技量や体力は僕ら同年代グループのおよぶものではなく、ある冬皆んなで、穂高で冬山合宿したが彼が一番元気良く、雪の中を走り回っていた。
この合宿の時、テントの中で携帯用のガスコンロが灯かず、奇想天外の山さんがいじくっていたら漏れたガスにローソクの火が引火して、ぼっ、と山さんの持っているコンロから炎が吹き上がった。山さんが炎に包まれたように見えた。僕は寝袋の中に入っていたが、とっさに、テントが燃える、仲間が寝ている、と判断すると、テントを守るため寝袋から飛び跳ね燃え上がる炎と山さんもろともテントの外へ突き飛ばした。外には闇の雪面の上、赤々と燃え上がる炎と山さんのびっくりした顔があった。その後ろは奈落の絶壁であった。山さんもびっくりしたのだろう、帰って皆んなに「みつるに殺されかかった」としばらく言い廻っていた。





2012年3月6日火曜日

29今どき破天荒な男たちの物語

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このおばさん、男まさりで体格も良く、酒を飲むと「うぉー うぉー」と叫ぶもんだから客がビビッてしまい、皆、カウンターにうつむいてチビチビやっている。カウンターの中でママが一人息巻いているのだがどちらが客だか分からない。また、このママ大層喧嘩っぽくて、生意気な客がいると「帰れ!」と言う。さらに生意気な客がいると、しぶしぶ帰る男を追いかけ「きゃぁ!」と満月を背に飛び蹴りをかましたりする。以前、別府の方でやはり小料理屋をやっていたらしいのだが、あんまり客と喧嘩するので近くの派出所からさんざん睨まれ、ついには少し殴られただけの男が次の日から身体中ぐるぐる包帯を巻いて松葉杖を突きながら、毎夜毎夜店へやって来て「ママにやられた、ママにやられたぁ・・・」とうめきながらカウンターに居続け、とうとうその店は潰れてしまったという。

僕も以前、店のカウンターで友人と飲んでいたら、よく来る酒ぐせの悪い男であろうか、ママが「もう飲ませんと言っただろうが、帰れ!」と怒鳴っていた。が、このサラリーマン風の若い男はさらに居続け、隣の客のカウンターに置いてあった煙草をサッと一本ぬく。するとそれを見たママが血相を変え、「こらっ!お前は何をするんかぁ!」とカウンターごしに、煙草を握っている指を氷を砕く時のピックでクッ、と突いた。すると、ぱっと男の指に赤い血が滲みポタリと煙草が落ちる。さらに、カウンターを廻り表に出て来たママは男の髪の毛をひん握り、「ガーン!」と床にひきずり倒す。そして再び「帰れ!帰らんか!」と怒鳴り、今まだヘラヘラ笑っている男の背広の襟をぐっ、とつかむとズルズルズルと店の外へ引きずり出していた。この間、他の客らは何事もなかったようにとぼけた顔をして酒をすすり、ママの機嫌がなおるのをじっと待つ。こういうことはこの店では日常茶飯事なのである。

 この恐ろしいママさん、実は気はやさしくてきっぷも良く、また面倒見が良いので、何をしてもすべての客から親しまれ慕われていた。常連客らは怒鳴られながらも飽きもせず、この店へ足を運ばせていた。また、このママには女性ファンが多く、店には若いOLらが多数たむろしていた。そして「ママぁ 今度結婚しようと思うんだけどぉ、わたしの彼見てくんなぁい」と言うと「よっしゃ!今度連れて来な」と言う。そして、彼女が彼を連れて来たその翌日「ねえママ、どうだったぁ?」「ありゃ 駄目じゃ、やめとき。他のを探しな!」と言う一言で“彼”の運命は決まるのである。
それ程ママは若い娘から信頼され、尊敬されていた。むろん、他の客らにも信望は厚かった。また、後家であり、子供のいないママは、僕らクラブの仲間を息子のように可愛がり面倒を見てくれた。僕もその一人であり、ここに登場する中野を始めとする友人ら、そして酒飲み北さんもその一人である。