2013年3月27日水曜日

Gallery-24

湖上に映るドイツの古城

デンマークの古城

飛騨高山

スイスの古城

湖上に映る山景

75今どき破天荒な男達の物語


 二人とも気に入ったらしく、ある日、洋一のアパートを訪ねて行くと背広にネクタイをして、髪を七・三に分けて(今時珍しい)デートに行く洋ちゃんの姿があった。僕は扉開口で彼を見ると、思わず「おっとぉ!」とつまづきかけた。
 二人の交際が仲間うちに広がってくると、中野がやって来て
「洋ちゃん良かったなぁー」
といかにも、なぁー、と何か意味ありげに語句を伸ばしていた。そして
「あの朝鮮人は元気にしとるかい?」
と言う。僕が
「朝鮮人じゃない。中国人だ。それに今時、朝鮮人なんて言ったら笑われるぞ。韓国人って言うんだ」
と言い返すと、彼はさもびっくりしたように
「えっ!中国人かい!?朝鮮人じゃないんかい」
と聞きなおした。
その後、再び洋一に会った中野は
「あの朝鮮人は元気にしとるかい」
と言っていた。もう誰も何もいわなかった。

 こうして,三郎の紹介から一年もせず、洋ちゃんは地元の小さな結婚式場で結婚式をあげることになった。
 仲人は奇想天外の山さんで、僕は新郎代表の挨拶をすることになった。



 気取った雰囲気もなく本当に良い結婚式であった。席上、新婦側の中国引き上げ者団体の代表という人の話があった。
 終戦後の大陸で親子、兄弟が離ればなれになる混乱した様子を切実に話すその内容は、話が生々しく真実味過ぎるのか、混乱する人々の顔が映像のように目に浮かんだ。洋一の新郎側の親族は皆、ハンカチで目頭を押さえていた。彼は長いスピーチの後
「あの混乱した時代、親兄弟が生き別れになり、その子供が今こうして華やかな席で結婚式をあげるなぞということは、あの時代から考えると夢のようです」
と言って、支那の歌を歌いだした。
 僕は久しぶりに良い話を聞き、胸を打たれ感慨にふけっていると、中野が隣から
「あの爺さん、こんな席でしみったれたこと言わなきゃ良(い)いのに、ほれ、会場がシーンとなってしもうた」
と僕に耳うちした。彼には敗戦後の大陸の光景が浮かばず、瞳には目の前の御馳走しか映っていないようであった。

2013年3月20日水曜日

Gallery -23

青い空

かなでる花

ロッキー山脈

はてしなき道

アマゾンの日没

74今どき破天荒な男達の物語


 洋ちゃんの始めてのデートの日曜日、彼女は日勤ということなので、夕方まで彼を誘って近郊の岩場へルートの開拓に行くことにした。ハーケンを打ったり、穴をほじくったりして岩職人のように岩壁にへばりついていると、歯科技工師の三郎が下から
「おーい みつる!洋一のデートがあるから帰るぞー」
と叫ぶ。
「そうか、そりゃ、早よ帰らにゃいかん」
と慌ててザイルを伝って下がって行くと、洋一はのんびりとしていたが三郎がわっせ、わっせと登攀具をまとめ、帰る準備をしていた。
「洋一のデートかぁ!何かわくわくするのぉ」
とかなり興奮していた。
「俺はこれから洋一を風呂に入れる」
と言う三郎と別れ、僕は帰ったがその日、温泉好きの洋ちゃんは風呂に長湯し過ぎて、デートの約束の時間をオーバーしてしまった。相手の女性はもう、その約束の場所には居なかったという。三郎は洋一が洗面器を持って温泉に入って行くのを確認してから帰ったのであった。
 翌日、
「どうだった?」
と僕が彼のアパートへ訪ねて行くと
「怒って帰ったらしい」
と、人事(ひとごと)のような顔をして言う。
「そりゃ、すぐ電話してやれよ」
「電話してどうするんか?」
「謝ればいい」
「そんな事は出来ん」
「それじゃ何か話しをしてやれ」
「何を話すのか?もしもし、えー今日は良い天気ですねえ、とでも言うのか?」
と半ば自棄(やけ)気味に言うので僕はもう何も言わなかった。彼は男ばかりの生活に慣れていたのでソフトな会話は出来ないのだった。

 こうして彼の初めてのデートは失敗に終わり、今度は僕が、誰か女の娘を紹介してあげようといっていたが、それを聞きつけた歯科技工師の三郎が先を越した。彼の勤めている歯科医院で衛生師をしている女の娘で、中国からの引揚者であるということであった。父親が中国人らしく、カタコトの日本語を喋るおとなしい娘である。

2013年3月13日水曜日

Gallery-22

白山

裸婦

シベリヤ山脈

嘆く男

嘆く女

73今どき破天荒な男達の物語


 かくいう彼も、このまま船乗りと山登りばかりしていては子孫繁栄は難しいと密かに悟ったか、船会社をやめ、街でサラリーマン生活をした事があった。その時は小型船舶学校の教官と営業を兼ねた仕事であったが、ちんちくりんのブレザーを着て、「えー、あんた、船の免許を取らんかい」とか、やはり刑事コロンボみたいな顔をして言っていたが、仕事はなかなか順調にこなしているようであった。
 そこへ、例の奇想天外の山さんが奇想天外な話を持ち込んで来た。電力会社の下請けで、電柱のチェックに電柱に登るだけで、月、四、五十万はなるという仕事である。自分がやりたいのだけれど相棒がいるので誰か一緒にやらないか?ということであった。この頃、中野はヨーロッパへ行ったきりであったということもあり、この洋ちゃんを朝から晩まで説得し
生活や仕事に関しては極度に慎重な洋ちゃんを「うん」と言わせたのであった。
 ところが、この話、電柱のチェックどころか電柱の穴掘りをさせられ、それも月、四十万どころか月、十数万そこそこしかならないという仕事であった。業者にまんまと騙された奇想天外の山さんは一日道路に穴を掘っただけで来なくなった。そして、洋ちゃんに悪いと思ったのだろう、洋ちゃんの前からぷっつりと姿を消した。
 せっかくの小型船舶の会社をやめてしまった洋ちゃんはしかたなく、ジャーと朝、弁当を作っては電柱の穴掘りに出かけていた。
 そして数ヵ月後、「『うまい話には絶対乗るな』という爺ちゃんの遺言を守らなかった俺は馬鹿だった」とまたまた名言を吐いて、再び船に乗って行ったのである。
 その奇想天外の山さんが、知り合いの看護婦さんを紹介した。僕らと齢は変わらないというから女性としては年増の方である。

2013年3月6日水曜日

Gallery-21


マッターホルンへの道

エベレスト

遠征

遊び小僧

山小屋の夜

詩

キャンプ

詩画

人形

ジュネーブの噴水

72今どき破天荒な男達の物語


 さて、この僕らの仲間の船乗りの洋一が結婚することになった。彼は仲間のうちでは一番所帯じみていて、若い頃から、「人間は子孫繁栄をせにゃいかん」と、口癖のように言っていた男である。
 彼は仲間の中で、何時結婚してもおかしくない存在であった。外食はせずにアパート暮らしであったが休暇中、アルバイトへ行く時は弁当を作っていた。
 僕らが彼のアパートで酒を飲んで寝ていたら、朝早く、ジャーと玉子焼きを焼く音がして、寝ている僕らに
「じゃ、俺は仕事に行くけど煙草の火とコタツの火だけは冗談じゃ済まされんからのぉ!」
と、名言を吐いて出て行った。
 彼は男前なのだが、あまり女性と話したことがない。以前、車の中古を買う、というので僕がついて見て廻っていた時、おもしろいおっさん(オーナー)と知り合いになり、そこの店へよくひやかしへ行っていた。オーナーと言っても事務員が一人居るだけの小さな事務所であるが・・・。
 洋ちゃんがよくそこへ行きたがるので、おかしいなぁ・・・?と思っていたら、そこの事務員に気があるらしく、洋ちゃんにしては珍しく話しかけていた。おやっ?と思い聞き耳を立てていると
「あんた、生まれは何処かい?」
「国東の真玉町です」
「ほ、ほーう、それじゃうちの兄貴の嫁さんと一緒じゃ」
「そうですか・・・?」
「そうや・・・」
「・・・・・?」
「・・・・・・」
これで会話が途切れてしまう。僕は傍で聞いていておかしくて、帰りに
「おい、お前、警察官の尋問じゃないんだからもっと違ったことは言えんのか?」
と言ったら不機嫌な顔をしていた。
 また彼は非常に人見知りをするので人の多く集まる所へは行かない。山下のペンションも、日曜日には絶対に行かない。山の帰りに、通り道なので
「おい、山下の所でコーヒーでも飲んでいこう」
と誘うが行かない。
 むろん、喫茶店も行かず、以前、山下が勤めていた奇麗好きのマスターの店はキラキラとして女の娘も多く、僕や三郎たち仲間はよくそこへコーヒーを飲みに行っていた。が、洋一だけは山下に用事のある時だけ、透き通る店の窓ガラスをトントンと叩いて、山下を手招きで呼んでは道路で彼と話をして用事を済ませていた。ちょっとコーヒーでも飲んで行けというが、その女の娘の大勢いる店へは絶対入らなかった。