「こいつらは何を見せても俺を信じないみたいだな、俺を北朝鮮のスパイか、何かと思ってるんだな」
体格の良い大男が僕の腕を、ぐっとつかみ、テントの中へ連れて行こうとする。皆、手に機関銃を持っている。重そうな弾のいっぱい出そうなやつだ。
「うーん、あそこへ連れて行かれたら何をされるか分からんなぁ」
と、次第に僕は恐怖にかられ、「うーん」と唸り声をあげる。
すると、少し賢そうな顔をした兵隊が、ばっと僕のカメラを取り上げると、カパッとケースをあけ、中からフィルムを取り出した。そして、「行け!」と僕の背中を強く叩いた。
「助かった!」
と、僕はゆっくりと歩きだすが、後ろを振り向くと、カービン銃を下げた兵隊が大勢立ったまま、睨んでいた。風が冷たく、荒涼とした風景の中、ひんやりと流れる。
「撃つなよ、撃つなよ・・・・・」
と、背中で呟きながら、何事もなかったようななにくわぬ顔を装い、ゆっくり、ゆっくりと歩いて行く。だいぶん歩いたところで、チラッと後ろを振り向くと、彼らはテントの方へ引きあげていた。
「助かった!」
ほっと、肩を降ろすと、冷たい風が頬をさすった。
寒風吹きすさぶ寒い日が続いた。大寒波が訪れた。バチバチと氷(ひょう)が降った。マイナス二十度はあろう日が続いた。空気が冷たく、瞼が凍りつくようであった。羽毛服の襟を立てて街を歩く。何かぶ厚く凍っていた。その上で子供らがソリに乗って遊んでいた。
韓国人は寒さを知らぬようであった。きっとあのニンニクや唐辛子の食事のせいで、身体がポカポカと暖まるのだろう。
寒くて堪らぬ僕は、なんとかこの寒さから逃れようと、食堂へ駆け込む。
店の中はストーブをごんごん焚いて、窓ガラスが白くなっていた。家族連れが多い下町の小さな食堂である。
壁に貼ってある、訳の分からん記号みたいな文字を指さし、
「あれとあれをくれ」
と注文すると、しばらくして親父がスパゲッティミートソースみたいなものを持って来た。良く見ると、麺はうどんみたいなやつだ。上に掛かっている紅いのはなんだろう?と口に入れてみると、
「うわぁー」
辛いのなんの、唐辛子をぬりつぶして味をつけたものだった。口から火が出るかと思った。
「こりゃ、こんなもんばっかり食ってりゃ寒かねぇや」
と胸を撫ぜ降ろして、マッカリ(韓国の焼酎)を、くいっ、と飲みほすと、再び街へ出た。
さぁー、と冷たい冷気が頬をさすった。氷がいつのまにか雪に変り、あたり一面、真っ白である。雪が音を吸い、世界が停止したような清閑さが広がる。クリスマスが近かった。僕はふと、故郷を思い出し、襟を立て、太い太い雪の筋が降りる仁川の街を歩いて行った。