2012年10月26日金曜日

55今どき破天荒な男達の物語

このブログは一つの物語です。

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今どき破天荒な男たちの物語の1 

 この洋ちゃんとは休暇の関係もあり、よく二人で山へ出掛けた。が、この二人になると一杯飲む機会が多くなるので、長らく二人で山へ入っているときなどはキャンプ場をブラブラしていることが多かった。それでも前夜、テントの中で綿密な登攀計画を立てて装備をまとめると、
「よし、明日はあの壁にアタックだ。早朝三時、起床!」
などと言って酒も飲まずに早々に寝込む。が、早朝目を覚ますと、バタバタバタ、ブルーン、ともの凄い音を立ててテントが風になびいている。二人とも、暗い中、寝袋に入ったまま起きようともせず煙草を吸っている。
「おい、凄い風だなぁ」
と、僕が言うと
「うむ・・・風速三十メートルはあろう」
と船乗りの洋ちゃんが深刻そうな声を出していう。
「うむ・・・こりゃ嵐だな」
僕が唸る。
「うむ・・・こりゃ大時化(おおしけ)じゃな」
と船乗りの洋ちゃんが唸る。
「おい、どうする?」
「うむ・・・こんな嵐じゃなぁ」
「うむ・・・こんな時化じゃなぁ」
「今日は中止にするか?」
「うむ・・・そうだなぁ・・・」
と言って、再び二人とも眠りこける。
そして、テントに射し込む眩しい光で、再びうつらうつらと目を覚ますと午前十時を廻っていた。テントはまだ激しくバタバタと揺れていた。
「おかしいなぁ・・・?こんな嵐に陽射しが強いなぁ?」
と思っておそるおそるテントから外を覗いてみると、な、なんと、外は雲ひとつない晴天で、透き通るような青空が何処までも広がっていた。
「おかしいなぁ・・・?こんなにテントがなびいているのに・・・?」
と思って外へ出てテントを見ていると、テントのフライ(テントの上に張る雨よけのシート)が外れ、さわやかな風にバタバタと旗のようになびいていた。
 北アルプスの登山基地、涸沢のキャンプ場は、若い娘らが元気に走り廻り、北穂高への一般登山道には登山者らがぞろぞろと登っていた。
 こうして、早朝のアタックを逃した僕らは、またもや、天気の良い涸沢のキャンプ場で缶ビールを片手に、日がな一日陽なたぼっこをすることになったのである。
 このパートナーの洋一、度胸も良く、危険な山行をするのである程度覚悟しているのか、クラブの会合の時、僕が会費を集めて皆んなの名前を書いている時、“伊藤洋一”と書くべき所を“伊東”と書いていたら、それを覗き込んだ洋一が
「ほ、ほーう。お前とは一緒に山へ行けんなぁ」
と言うので、何にかと思ったら、僕の持っている紙にササッと“伊東”と書きながら、
「お前と一緒に山へ行って、わしが死んで役所の死亡証明書にこんな字を書かれちゃぁ、お袋が自分の息子が分からんでうろうろするわぁ」
と言う。
 このように、洋一という男は非常に几帳面で昔気質でもある。そのくせ酒を飲んだらでたらめとなる。







Gallery-9

山百合

髪に夕日かⅠ

髪に夕日かⅡ

花と日と友

夕日

だから何なのさ

登攀Ⅰ

登攀Ⅱ

女の背

野ウサギ



2012年10月20日土曜日

54今どき破天荒な男たちの物語

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今どき破天荒な男たちの物語の1 

 その点中野はしぶとく、なかなか落ちなかった。何処となく用心深い彼の性格がそうさせるのだろう。
 船乗り洋一は技術的にも体力的にも落ちる要素はなかった。それどころか日本の岩壁をなめているのか、よくノーザイル(ロープなし)で登っていた。
 やはり宮崎の岩峰で、前夜飲み過ぎた僕と洋一はルートの取り付きを間違ってしまい、全く未知の壁へ取り付いた。むろんハーケンなぞは打ってないしまた、持っていなかった。
「おかしいなぁ・・・?あの洋ちゃんがえらく苦労してるなぁ」
と、僕はセカンドで下からザイルを握って見ていたが、登ってみるととんでもない壁であった。ふうふう言いながら登って行ったが下へ降りて行くと、僕らを下から見ていたクライマーらがやって来て
「いやあ凄いですねぇ、初登ですねぇ。あそこは難しいから誰も手付かずだったんですよ」
と言っていたが、二日酔いでルートを間違えたとも言えず僕らはニヤニヤ笑っていた。
この壁も洋一がハーケンも打たず、トップで登ったものだが彼の度胸には恐れ入ってしまう。
 また北岳という、富士山の次に高い山に高度差千メートル近い、日本で一番長くまた標高も高いとされる大岩壁がある。此処を登ろうと僕と洋一は計画していたのだが、急に洋一が船に乗ることになったので僕はザイルパーティーが居なくなって困っていたら、洋一が
「おい、あそこは女も登る所だぜ」
と、急に言い出した。
「いや、確かに女も登っているが、男に引っ張り上げてもらって登ったんだ。それがどうかしたか?」
「ほ、ほーう。お前、女が登るところを登れないのか?」
「でも、ザイルパートナーが居ないじゃないか?」
「一人で行きゃいいじゃねえか?」
「ひ、一人ってあの岩壁を単独で行くのか?ザイルなしでか?」
「そうやぁ」
「落ちたらどうするのか?」
「そりゃ、お前、運が悪かったと思って諦めな」
「・・・・・・」
「洋ちゃんだったら単独で登れるかも知れぬが俺りゃ自信ねえなぁ」
「ほ、ほーう。お前、女が登るところを登れねえのか?」
「でも、ザイルが有るのと無いのとでは違うじゃねえか。墜落した時に止まるのと下まで落ちるのとは全然違うぜ。それもあの長い岩壁じゃなぁ・・・」
「ほ、ほーう。それじゃお前、俺が単独で登って帰って来たらどうするか?カッコ悪いなぁ。お前、女が行く所をだなぁ・・・・」
と、えらく女にこだわる船乗りの洋ちゃんととりとめのない議論をして、僕も「うむ・・・単独で行ってみようかなぁ・・・?」と思い悩んでいたが、結局、一般登山ルートから単独で行くようになった。そして、雲の切れ間に聳え立つ岩壁を眺めながら「洋ちゃんもひどいこと言うなぁ、あんな所、単独で行けるかい」と煙草を吹かして独り言を言っていた。洋一なら単独で行けたであろう大岩壁である。





Gallery-8


サハラ

地の果て

宇宙のお祭り



北岳

ドリル


死の世界

ヨーロッパアルプス


寂光土



アンデス山脈


ヒマラヤ山脈




2012年10月10日水曜日

53今どき破天荒な男たちの物語

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 こういう滝壺は僕らが滝登りをする途中に幾つもあり、寒さが冷え込まず、滝が完全に凍りきれない時は完全な水壷となる。それでも僕らはこの滝壺を廻り込み、かすかに張ってある氷を頼りに滝を登るわけだが、ある時、何処かの山岳会が先行パーティーにいて、滝で悪戦苦闘していたが、すこん、と足をぬかして、滝壺にバシャーンと落ち込んだかと思うと腰まで水に浸かって放心状態で立っていた。が、運良く立ったこの男、御丁寧に、再びバシャーンと滝壺の中に頭から倒れ込み、ぶくぶくぶくと冷たい水の中に沈んでいった。寒いのに御苦労なことである。
 このように“落ちる”というのは実に悲惨な状況になることが多い。僕もよく落ちるが、酒飲みの北さんもよく落ちる男である。
 ヨーロッパへ行った時、彼とパーティーを組んでいたがルートを間違い、にっちもさっちも行かなくなった彼はカエルのように、べちゃ、と岩に張りついて口を尖んがらせていたが、じわーと動いてバランスを壊したかと思った瞬間、積み木がくずれるようにガタガタとくずれ落ちた。
 このように、足が滑ったとか、手が滑ったというような突発的な落ち方でない時は、より一層悲愴感が漂う。
 彼は非常に粘りのある男で、このようにねばった後に、落ちる、というのは珍しいことで、行き詰っても垂直に近い壁にへばりついて二十分も三十分も一歩も移動せず、
「うむー」とか唸りながら手を出したりひっこめたりしている。
 その粘り強い彼も、アルコールが入ると粘り気が溶けるのだろうか。当時、スイスシャレーの山下のアパートはわりと街中にあったので、夜遅くまで飲み過ぎた僕らは深夜、彼のアパートによく泊まりに行っていた。が、彼のアパートの鍵は壊れていて、住んでいる本人もであるが僕らも、便所の小さい窓から出入りしていた。ところがこの小窓に侵入するのはかなりの高等テクニックがいって、岩登りの上級の部類に入るぐらいであった。また、二階でもあった。その住人山下が、オカルトの本に囲まれ、すこやかに眠っている夜半、突然ガタガタ、バタン、というもの凄い音がした。「何んだ!」と飛び起きた山下が便所の扉を開けてみると、独身男性の汚い便所の便器の中に頭を突っ込んで「あわわわ」とうめいている酒飲み山さんがいたという。彼の粘りのクライミングもアルコールと便所の小窓には通用しなかったようであった。桜アパート23号、トイレ窓登攀中、墜落の記録である。




Gallery-7


サハラ

地の果て

宇宙のお祭り



北岳

ドリル


死の世界

ヨーロッパアルプス


寂光土



アンデス山脈


ヒマラヤ山脈




2012年10月2日火曜日

52今どき破天荒な男達の物語

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 キャプライトを灯け、夜間登攀をしていた最中(さなか)、僕の胸に付けていたライトが何にかの拍子で、バチン、と外れ、キラキラと輝きながら暗闇の中へ吸い込まれて行った。二人とも「はっ!」と息をしただけで声は出なかったが、それは美しいものであった。
 そして、キャプライトをなくした僕はトップを山下に行ってもらい、闇の中、オーバーハングを手さぐりで座頭市のような格好をして登攀を続けた。新月であった。
 こうして、真夜中の何時間かの悪戦苦闘の後、僕らは岩壁をぬけ山を下って来たが、あたりはもう、白(し)ら白(じ)らとしていた。こんなに苦しんだから冷たいビールでも飲まなきゃ、と二人でバイクを飛ばし延岡の街へ出るが、この街は不思議なことに幾ら探しても酒類の自販機がない。しょうがなく僕らは確かに酒と書いた甘酒を自販機から買うと、二人で乾杯をした。

 僕が悲惨な目に会うのは岩登りだけじゃない。夏に沢登りに行った時、いつもより水量が多く渡河しにくかった。そこで、僕が仲間から蔓(つる)を持ってもらい急流を渡河するのだが、河の真ん中あたりに行った時、ぬれっと深みにはまり、どぼん!と頭から水中に沈み込み、ザアーザアーと水流にもまれ流された。急流に流されながら、あっぷあっぷと口を開け、友人らを見ると皆、腹を抱えて笑い転げていた。僕が泳げたから良かったものの皆んな冷たい奴らだ、とびしょ濡れになって文句を言おうとしたら、船乗りの洋一が
「おーい 今日は山登りに来たんで泳ぎに来たんじゃねえぞぉ」と笑いを堪えながら言うので、もう何も言わなかった。皆、僕が泳ぎが達者なのを知っているのだ。
 こうして僕はびちょびちょの服を着て沢から谷へと登っていったが、これが暑い盛りだったから良かったものの寒い時では堪らない。

 厳冬期になると、暖かい九州でも山の方は幾つも沢や滝が凍る。僕らはこれを楽しみに登りに行くのだが、ある雪の多い冬、いつものように滝を登ろうと沢をつめて行っていた。そして道中、まだ完全に凍っていない滝壺に歯科技工師の三郎が足を踏み入れた。すると、バリッと滝壺に張ってある氷が真っ二つに割れ「あわわわ」と三郎が滝壺の中に消えていく。それを助けようと、他の友人がピッケルを差し伸べようとするが、彼の立つ氷もバリバリッと真っ二つに割れ、彼も「わわわ」と凍りつくような水の中に沈んでゆく。悲惨である。
僕らはなんとかかんとか彼らを引き上げたが、三郎愛用のアルプスを登った思い出のピッケルは滝壺の中へ沈んだままとなってしまった。




Gallery-6

ひん 

死後の世界


ビックバン


受精

紅葉

一輪の花Ⅰ


一輪の花Ⅱ

未来像 

ノサップ岬

遊び小屋