2012年8月29日水曜日

48今どき破天荒な男達の物語

このブログは一つの物語です。

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今どき破天荒な男たちの物語の1 

 このように、彼はフランスに居る時、「日本では何倍で売れる」とわくわくしながら送ったものは、高く売れるどころかすべて二束三文か、人にくれてやったのである。
 その競技用の、日本で買えば二、三十万はする軽自転車も一台は僕のうちにある。もう一台は、運転免許を剥奪された歯科技工師の三郎が可哀そうだ・・・?と言って、中野が二束三文で売ってやった。
 僕の持ってる一台は、彼と夕方、例の露天風呂の“楽々園”へ行った帰り、湯上りにブラブラ歩いていると中野が何を思ったか、突然、
「ソープランドへ行くからあんた、金貸さんかい?」
と言いだした。急に何を思ったんだろう・・・?と思ったがそこは中野のことである。深く考えないようにして、
「貸すというより、お前、あのもう一台の自転車を俺にその金で売らんか?」
と、ふっとした思いつきで冗談まじりに言ってみると
「ああ、ええわ!」
と答えたので、僕は一瞬、「はっ!?」と耳を疑ったが、中野の思いつめた顔を見るとすかさず二万円渡した。
 この衝動的というか動物的というか、これもまた、ホモ・サピエンスに程遠いものであった。何処までも本能優先で行こうという腹である。
 僕は金を渡したものの中野が自転車を持って来るかどうかが心配で、中野に会うたびに「自転車は?」と尋ねていたが、ある天気の良い日曜日、奇麗に手入れされた軽自転車を僕のうちに持って来た。
 彼の弁当屋は順調に流行(はや)っているようで、中野も忙しそうに太い身体を狭い厨房の中でくねらせて動き廻っていた。



 ある夏の暑い日、彼の弁当屋へ行ってみると、何処から仕入れたか?古く、色の剥げかかった缶ジュースの自動販売機にペンキを塗っていた。
「おっ!こりゃ何処から拾ってきたんか?」
とボロボロの自販機をガーン!と蹴飛ばすと
「シイーッ」と人さし指を立てて口に当て、あたりをキョロキョロ見廻す。
「人聞きの悪いこと言うなぁ・・・五千円でクズ屋から買ってきたんだぜ!」
と、ブルーのペンキをペタペタ自販機に塗りたくっていた。
「しかし、俺りゃこういう色の自販機は見たこたぁねえなぁ・・・」
と言うと「そうかな・・・?」と中野は不安気に振り向いて
「どんな色がいいかなぁ・・・?」
と、ブルーに塗りかかった自販機を眺めては悩んでいた。
「お前、缶ジュースはどうするんや?」
「缶ジュースは安いのばっかり入れようと思うんや。ほれ、名の無い安いメーカーのがあるやろ」
「あはは、お前は馬鹿か。最近のガキはなぁメーカーを見て物を買うんやぜ。お前みたいに安けりゃ良いという人間は東京オリンピック以来出現してないわ!」
というと中野は急に「そうかなぁ・・・」という顔になり、また悩みだす。




2012年8月21日火曜日

47今どき破天荒な男達の物語

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今どき破天荒な男たちの物語の1 

 その後、僕はこの情けない組事務所の前へ堂々と車を止め、中野の所へ出入りするようになった。また、よくこの組の若い兄ちゃんらが中野の弁当屋へツケで弁当を買いに来ていた。
「ほんまに明日(あした)払うんやろうなぁ」と中野が怒鳴るように言うと
「払う、払う」と、中野を神様みたいに拝んでいた。馬鹿な男だ、中野に手を合わせるぐらいなら働きゃいいのに・・・。
 その後、この兄ちゃんはついに飯だけを注文するようになり、大盛りの飯を持っていそいそとプレハブの方へ走っていた。「ほんま、情けないヤクザやなぁ。飯しか食えんのかい」
と中野は完全に馬鹿にしていた。

 この中野も、ある日、彼の弁当屋へ行くとほとんど鍋に近い大きな丼に、飯を山盛り入れ醤油をかけて食っていた。
「おお、すごいなぁ。お前、おかずが眼の前に有ろうに・・・」
と言うと
「もう此処のおかずは食い飽きたんやぁ。毎日毎日同じもんばかり食えんわぁ」
と言っていたが、中野が食い飽きるというんだ、よっぽど食ったんだろう。
「それにしてもお前、よく醤油だけでそんなに飯が食えるなぁ」
と感心しながら言うと
「いやぁ、昔のことを思えばなんともないわぁ」
と口を頬張りながら答えた。今、思い出しても凄い飯の量であった。

 その後、彼は相撲取りみたいになって、山へは行こうとしなかった。食欲にすべて押し負かされてしまったようである。目の前にあれば食べる、というのはホモ・サピエンスに程遠いように思われた。
 その彼も、かなり反省したか自転車に乗りだした。彼はフランスから三台、ツール・ド・フランスに出場するような時速百キロは出る、競技用の自転車を送っていたのである。彼はフランスに居る間、日本に持って帰れば高い値で売れそうなものをちょくちょく送っていた。ある日、僕のうちにチョコレートの丸い缶がフランスから送られてきたので、おかしいなぁ・・・?フランスには滞在したことがあるが、チョコレートをプレゼントしてくれるような人は居ないはずだが・・・まさか、中野が僕にチョコレートをプレゼントするはずはないし・・・国際的なテロリストが誰かと僕を間違えて、爆弾か何かを送りつけてきたのだろうか?と、差し出し人の書かれていない大きいチョコレートの丸い缶をおそるおそる開けてみると、八ミリ映写機用のポルノフィルムがびっしり入っていた。住所不定の中野が、僕の家の住所を書いて送って来たものであった。そのフィルムはさっそく皆んなに貸して、中野が帰って来る頃には僕の手元には一本もなく
「あんた、ひどい人やなぁ、送る相手を間違えたわぁ」
と、中野はしばらくぶつぶつ言っていた。




2012年8月15日水曜日

上 り 最 終

上 り 最 終

最終の列車は
片寄った動き方をする。

姿はどす黒く
びらびらとした感性をもつ。

月に雲がぐぐっと迫った時、
爆発的な悲鳴を挙げて
出発する。
レールはいつもの
真っ黒いやつ

何もかも 置きざりにして
出発する

夜霧のなか、
約束事は何もない。

空気が真空の
真似をした時、
黒煙が昇り始める。

46今どき破天荒な男達の物語

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 こうして繁盛しだした弁当屋は一人では手におえなくなり、学生アルバイトの女の娘を雇うようになった。が、そのアルバイトの女の娘らはあまり長続きしないようであった。それを中野がぶつぶつと
「最近の若い娘はあかんなぁ、すぐやめるわぁ」
と一人前のことを言っていたので
「お前?なにかするんじゃないのか?」と尋ねると
「わしが何をするかい。たまに尻を撫ぜるぐらいやないかい」と、さも怒ったように答える。
――それが原因じゃ。
 この弁当屋の界隈は学校が多く、小、中高学生らがよく登下校していた。中野は、女子高生を見ては、
「可愛いいなぁ・・・」
と、いやらしい目をして通りすがる女子高生らを品定めしていたがセーラー服を着た外人の留学生が通ると、
「あっ、毛唐や!毛唐が歩いとる。見てっ!」
と、パリに何年も住んでいた男が山奥の樵(きこり)のおっさんみたいに大声で叫ぶ。
 彼は彼女らをじぃーと見ているだけじゃなく、声も掛けていて、女子学生らに「くすくす」と笑われていたが、近所のガキには完璧に馬鹿にされていた。
 また、この弁当屋の前に、ヤッちゃんの事務所があった。事務所といってもタダのプレハブであるが一応、「~組」と看板は掛っていた。此処の組は昔は名門だったらしいが、親分が殺され、さっぱり落ちぶれてしまったというヤクザ屋さんである。いつも若いのが二、三人ゴロゴロしているようであるが中野に言わすれば
「この間、トラックの運ちゃんらがそこに殴り込みに来たが、運ちゃんらが事務所の前で怒鳴りちらして帰ろうとすると、急に事務所の窓から顔を出してわぁわぁ言っとった。情けないヤクザや・・・」と、いうことである。
 僕も、中野の弁当屋へ寄るのに、車を組事務所の前の道路に駐車していたら“此処は駐車禁止や、事務所まで来い”と置き手紙が置いてあった。頭にきた僕は、さっそく知り合いの運道具屋へ行き、「木刀の一番長いやつをくれ!」と言って樫の木の木刀を買うと、車の後部座席にほったり投げると再び組事務所の前の道路に駐車して、「バーン!」と力強くドアを閉め、肩をいからせて中野の弁当屋へ入った。何か言ってくるかな?と思って組事務所の方を見ていると、白い七分袖を着た若いチンピラみたいなのがプレハブの中から出てきて、車の中を覗きこんでいたが、座席の木刀を見てギョッとしたのか慌てて事務所へ戻って行った。



2012年8月8日水曜日

南 回 帰 航 路

南 回 帰 航 路 

波がかなりの早さで

追いかけてくる。
陸(おか)は遠く
早々と弧を切る船体。
星がきらめき
光が散る。
澄みきった空に
流れ舞う鳥か。
船橋(ブリッジ)に立つ僕の髪に
潮(うしお)が薫り
洗いざらしのシャツが
なびくなびく。
もう幾日も船に遇わず
  
レーザーを覗けば
黄色い波線が尾を曳き.
ぐるぐる廻る。
なかなかのスピードで
快適に滑るエンジン。
星座は今宵も物語りを
やさしく語り
煌々とした輝き。
すべてが闇と光の中、
とろとろ と僕は吸い込まれ
溶かされ
左腕はオリオン
右腕はペガサス
頭と胴体はアンドロメダ
突入する。



45今どき破天荒な男達の物語

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 トイレの話のついでであるが、中野はおもしろいことに、小用は絶対屋根の下ではしない。その理由はさだかでないが、彼の故郷である土佐の偉人、坂本竜馬がやはり厠(かわや)では小用をしなかった、というのを僕は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という本の中で読んだことがある。竜馬を尊敬しきっている中野は、それを真似して忠実に実行していたのではないかと思われる。
 あの、例のアパートの二階からも窓を開け、バラバラバラッと樹の葉によくかけていた。僕が「おい、そんなことをしたら大家や一階の奴らに怒られるぞ!」
と言うと、「いやぁ、大家は樹に肥やしをやって貰って喜ぶし、下の奴らは天気雨ぐらいしか思っとらん。
と、馬鹿なことを言っていた。
奇想天外の山さんが
「中野がうちへ来ると外で小用するので女房がうるさい。雨が降っとるのに『ああー寒い寒い』と、わざわざ外に出て小便するが、外ですると何か良いことでもあるのか?君、知っとるか?」
と、深刻な顔をして尋ねていたが、そう言えば、うちでもよく外でしてお袋が後で黙って水を掛けていた。いずれにしても、たいした理由も無いことを誰になんと言われようと、誰に迷惑かけようと、信念をもってつらぬき通すところが中野の良いところで分からんところである。

 そういう彼は、何を思ったか?突然、当時流行し始めた“ホッカホッカ弁当”をやると言いだした。
「あれはいい、儲かる!」
と言っていたが、弁当で暮らしている自分が切実にそう思ったのであろう。彼は準備金を借金で賄(まかな)うと、学生時代より暮らしていたあのアパートの近くに弁当屋を開いた。
此処で当然のごとく彼はブクブク太りだす。思うぞんぶん飯が食えるとあって、見境がなくなったのだろう。作っては食い、食っては作り、さらに作って売る、という具合である。誰が客だが分からない。
 だが、中野は世の中の人は皆んな自分と同じぐらい大飯食らいだと思っているのか、気前よく大盛りに飯を盛っていたから「あそこの店は飯が大盛りだ」という評判がたち、客が増えてきて彼の店は大繁盛しだした。僕が尋ねて行くと、忙しく働く中野の姿があった。その頃、クライミングに毎週行き、仕事も忙しかった僕は弁当屋の椅子に腰掛けると、
「ああ、えらい、えらい」
と言った。「えらい」というのは僕の口癖で関西一円の方言で「きつい」とか「しんどい」という意味である。若い頃から日本中放浪していた僕は、いろいろな土地の方言が入り混じっていて、その中の語呂の良い、気に入ったものを使っていた。
その「えらい」と力強く言う僕の言葉を聞いた中野は自分の事を「えらい!」「よう働く、あんたは偉い」といったものと勘違いしたのか、ジャーと鳥天を揚げながら、くるっと振り向くと、にやっ、と笑って「偉いやろう・・・・」と誇らしげに言った





2012年8月1日水曜日

縁 側 の 光 景

縁 側 の 光 景

やあ
此処に来て座り
じっと 陽が沈むのを
見つめていよう。

田園にずっと影が落ち
たたずむ足もとが
暗くなり始めたら
長い椅子を持ち出して
静かに座り
星の姿を眺めよう。

風が何処からともなく吹き
僕らの首筋をさわり
香ばしい花の薫りを
胸いっぱいに溜め込んで
昨日からの温もりを
たずさえ
光が ぐっと
差し寄せてくるのを
待ちわびよう。

風が ひとつ吹くと
月が、
君の背中から
じんわり 昇ってくる。


44今どき破天荒な男達の物語

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あの突然の腹痛と激しいもよおしで、見境(みさかい)がつかなくなった僕が悪いが山でトイレというのはひとつの難題である。
 吹雪の中で尻を捲(ま)くってみればいっぺんに凍傷になる。だからかなり我慢して、いざ、いよいよという時にすざまじい勢いで尻をめくって、瞬発的に落とすのがコツである。冬の糞は臭くなくていい。完全冷凍になる。その点、夏の北アルプスあたりの山小屋の便所というのは悲惨なもので、耐えられぬ臭いがする。水洗便所、といって下が空洞の横穴になっている便所があるが、水がちょろちょろ流れているだけで前の奴の糞もころころと転がってくる。また、山小屋のトイレというのはテント場にテントを張っている連中が一斉に集まってくるので時に混雑し、朝、夕食後のトイレなぞは大混雑となり、可愛い女の娘らがチリ紙を握って恥かしそうに空を仰いで行列をつくったりしている。
 酒飲み北さんが学生の頃、山岳部にそれは奇麗な娘が居て、長い間憧れていたらしかったが、北アルプス縦走の時その娘が山小屋へトイレに行くというので、覗いてやろうとわくわくしながら後をついて行った。このあたりのトイレというのは板張りの隙間だらけで覗こうと思えば幾らでも覗けるのである。
 さて、と、目当ての娘が入って行ったのを確かめると穴を見つけて、顔をへち曲げて覗こうとする。すると、
「バリ、バリバリ、ブスッ」
と、もの凄いバリトン音を発して、しゃがみ込み用を足す彼女の姿があった。
すっかり色気もクソもなくして落ち込んで、とぼとぼとテントに帰って来た北さんは、
「見に行かん方が良かった・・・」
と、元気なく呟いていた。
憧れのマドンナが、もの凄い音を発して糞をしているのを見た北さんは、しばらく立ち直れなかったという。
 また、奇想天外の山さんが若い頃、南アルプスへ行っていて、便所のないキャンプ場でやはり糞をしようと野原の方へ行ってみると、高原の中に男女二人が仲良くしゃがんで並び、用を足していた。彼らは山さんの知り合いで二人とも信州大学山岳部の学生であったが、恋人でもなんでもないタダの登山仲間である。その二人が青空の下、仲良く並んでしゃがみ込み、今後の山行計画などを話し合っていたという。
「いやぁ、僕もしゃがんで聞いていたが、二人とも淡々と話をしながらブリブリ音を立てていたよ。いやぁー痺れたなぁ!」
と言っていたが、また、その会話を近くで用を足しながら聞く山さんも山さんである。天気の良い南アルプスの花々が咲き乱れる高原の野原で、ああ、三人の光景が浮かぶようである。