2013年2月27日水曜日

Gallery-20

パイネ山脈

ドリュウ南西岩陵

甲斐駒ケ岳

山小屋

西穂高岳

大滝

山脈

湖畔に見る剣岳

剣岳山頂

チョウオユウ

71今どき破天荒な男達の物語


 それなら何故、最初に言わないのか?フィルムの現像などはしないのに・・・と、彼は腹を立てていたのである。
 おそらく中野は、食事券が売れなくて余ったあげくの考えであろうが、見え見えの策略である。
 その後、僕は二度目に買わされた食事券のリザーブを取ろうとホテルへ電話した。この時はもう、誰も事前には誘わなかった。何度かホテルへ電話するが、「休んでます」というフロント嬢の声であった。その後、幾度か電話するが、「居ない」という。だんだんフロント嬢の声が険悪になってくる。「どうしたんだろう・・・?やめたのかな?」と心配した僕は、情報通の歯科技工師の三郎の所へ行って尋ねてみると、他のホテルへ替わったという。そこも別府では大きい方のホテルであった。
 ははーん、引き抜かれたな・・・おそらく少しでも条件が良かったんだろう。そこで前の得意先と企業秘密をごっそり持って行ったに違いない。
 あれ程、入社する時に、「わしのような男を気に入ってくれて・・・」と恩義を感じていたのに何て奴だ。フロント嬢の「休んでます!」という嫌悪の声が耳に響いてくるようであった。
 さっそく新しいホテルへ電話すると、もうそこで何十年も働いているかのような声を出して、忙しそうに応対に出る中野が居た。
「はいはい、中野です」
「おい!お前、何時(いつ)替わった?」
「この間や」
「向こうに電話したら『休んでます』って言っとったぜ」
「ははは、そうかい」
「お前、やめるって言ってないのか?」
「ああ。でも、わしが此処に居(お)るの知っとるぜ」
「そりゃ、客を横取りされりゃ分かるわ!」
「ははは、それもそうやな」
「お前、給与は幾ら高かった?五千円か、一万円か?」
「いやぁ、給与はあまり変わらんが交通費が出るからなぁ」
「交通費って言っても一万ぐらいやろ。たかが一万円でお客をごっそり取られ、企業秘密まで持って行かれちゃあのホテルも堪らんなぁ」
「あはは」
「お前じゃなかったかなぁ・・・?人間は誰でも、しばらく一緒に居ると情が移るとか人間が犬や猫と違うのは情があるからや、とか偉そうなこと言っとったのは・・・お前は犬や猫か?」
「あははは」
 僕はもう、これ以上は何も言わなかった。彼はやはりアラブ人みたいな奴であった。別に彼を批判するつもりはないが、中野のような人間は、これからの日本人に必要な根性ではあると思った。

2013年2月20日水曜日

Gallery-19

ドリュウ南西岩陵

パイネ山脈

詩画

晩秋

高千穂連峰

夕暮れ

夢のかなた

十和田の晩秋

微風

花畑

70今どき破天荒な男達の物語


「それはそうと、あんた、ビデオが安いやろう。わしに売ってくれんかい?」
と、聞いた。
 先日、船乗りの洋ちゃんの結婚祝いに皆んなでビデオ器をプレゼントしたが、そのビデオ機は僕の勤める会社で仕入れたものであった。当然、中野にも個々割り当ての金を貰うためこのビデオを見せたが、原価であまりにも安いので彼は欲しそうな顔をしていた。が、チケットの件があるので、僕に頼むとチケット分だけ代金を多く請求される、と彼は読んでいたのである。そこで、とりあえず僕に食事をさせビデオを頼むという計画だったらしい。
 その翌日、彼が僕の勤める会社に来たらしく、仕事で出ている僕が社に電話を入れると事務員が
「今日、○○ホテルの人が『ビデオを下さい』と来たが、在庫がないと言うと、何時(いつ)頃入る?とか、ぶつぶつ言って帰った」
と言っていた。僕の勤める会社を○○電気か何かと間違っているらしい。
 一応、この中野のビデオ代を立て替えた僕は中野に金を請求するが、彼はなかなか払おうとはしなかった。しばらくして、ようやく金を持って来たかと思ったら、また食事券を買ってくれと言う。
「もう駄目だ!」
と僕は叫んだが
「あかん、あかん」
と二枚の食事券代をぬいた金額をビデオ代として僕に渡した。僕はもう何も言わなかった。

 この食事券の被害に会ったのは僕だけじゃなく、奇想天外の山さん、歯科技工師の三郎ら、皆そうである。さらに写真家をしている僕の友人の所にまでその被害が及んだ。
 ある日、その彼の所へ行ってみると
「中野は常識がない!」
と言って怒っていた。中野に常識を求めて接するから腹が立つんやと、彼のパターンを知りつくした僕が「どうしたのか?」と聞いてみる。彼が言うには、中野がホテルの観光用のフィルムを現像してくれと頼みに来たが、うちはスタジオなので写真屋じゃないと断るが、しつこく頼むので業務用で安く、現像センターへフィルムを廻してあげたという。むろん利益も何もない。そこへ中野が何を勘違いしたのか「食事券を買ってくれ!」と言ってきた。彼はそれを断ったが、その後何日かして
「あのフィルムは食事をしてくれるところに頼むとホテルに言われていたから、食事券を買ってもらわねば困る」
と言って電話があった。

2013年2月13日水曜日

Gallery ‐18

南太平洋の夕焼け

日常生活

草原

雲海

後立山

見上げる富士

光のソノ

良いことは

北岳バットレス

北岳から望む

69今どき破天荒な男達の物語


 そして、食事に誘ったガールフレンドもその後何度か会ったが、食事の件は知らん顔をしていた。友だちに騙された、とも格好悪くて言えないし、わざわざ金を使ってまで中野の勤めてるホテルへ行くこともないので、その話はそのままにしておいた。女の娘の方も、僕が誰か他の娘と行ったものと思い込んだか、あまりものを言わなくなった。
 そういうことはどうでも良かったが、中野は今回は許すわけにはいかなかった。あれ程、失業中に世話をしてやったのに、恩を仇で返すとはこのことであった。
「中野とは絶交した!」
と友人らに言って歩くと、皆、くすくすと笑っていた。
 その後、中野がこの話を聞きつけたか、
「分かった、分かった。あんた、皆にわしの悪口言うて歩いとるなぁ。分かったからレストラン予約しとこうか。何時がいいかい?」 
と言ってきた。
 僕は彼を許す気持ちはなかったが、反省の色の全くないあいかわらずの顔を見ていると、こいつを人間だと思うから腹が立つんだと自分を慰め、堪忍することにした。

 こうして僕は、けったくそ悪い思いをしてようやくホテルへ食事に行くことが出来た。例のガールフレンドを誘うとびっくりしていたが、中野に騙されたことを正直に話し、ホテルへ向かうと幸いなことに中野は居なかった。
 チケットの企画は終わり、そのレストランで中野のリザーブした食事をとることになったが、一人一万円の食事にはとうてい程遠いものであった。食事中にその娘はお見合いすることにしたとか言っていたが、そういうことはどうでも良いことであった。
 翌日、山下のペンションで酒を飲んでいると、中野から電話があったので
「いやぁ 昨日は済まなかったなぁ(何故俺が謝らなきゃならないのか?)幾らぐらいかかったかい?」
と、わざわざ聞くと、中野は「うぐっ」と口を濁らし
「たくさんや」
と答える。人を土人がアラブ人かと思っとるなと、また腹が立ったが
「一人五千円ぐらいか?」
と、わざと少なめに聞くと
「もうちょいや」
と本当の事を言った。

2013年2月5日火曜日

Gallery-17

穂高連峰

子猫

三毛猫

立山連山

虹の橋

猫

北岳連山

宙に舞う鳥

漂流

私は誰でしょう

68今どき破天荒な男達の物語


 師走に入り、街中があわただしくなったある日、中野がひょっこり現れて、ホテルの食事券を買ってくれと言う。一枚一万円という。
 僕は、忘年会が多いのにわざわざ年末に金を出してまで、旨いものを食おうとは思わなかったので断ると
「頼むわぁ、山さんも、さぶちゃんも買ってくれたぜ!頼むわぁ」
と嘆願するように僕の腕を握って言うので、中野もノルマがあって大変なんだろうと、二枚買うことにした。年が明けてゆっくりしたら、誰か女の娘でも誘って行けば良いわと思っていた。
 僕は彼に二万円渡すと、さて、誰と行こうか?一万円の価値のある女は居たかな?とひどいことを考えながら車を走らせていた。そこで、知り合いのガールフレンドに
「今度、○○ホテルへ食事に行こう。友達から無理やり食事券を買わされたから」
と言うと、彼女も喜んでいた。
 その後年が明け、久しぶりに旨いものでも食おうと思った僕は中野のアパートへ電話した。
「おい、そろそろ飯を食いに行くから食事券をくれよ」
と言うと沈黙が流れ、しばらくして
「・・・・あんた、よう覚えとったなぁ・・・?」
と言う中野の声があった。僕は一瞬、彼が何を?言っているのか分からず
「おい、チケットを持って来いよ」
と言うと
「あれはもうないわ・・・人にあげたわ・・・」
「人にあげたって、誰にあげたのか?洋ちゃんか?」
と、婚約中の船乗りの洋一が、デイトに行くのにあげたのなら許そうと思って聞いてみると
「いや、違う」
「誰か?」
「○○病院の医者や」
と、近くの医者の名前をあげたので、何故医者が出てくるのか?と不思議に思ったが、はっ、と、彼の知り合いの女の娘がその医師夫婦と親しいのを思い出した。
 怒りをこらえようと受話器を握って沈黙を続けていると、しばらく会話のとぎれた受話器の向こうから中野のとぼけた声で
「あんた、二万円分、そこで何か売ってきたらええやんか」
と言った。また馬鹿なことを言うもんである。確かに僕は営業の仕事をしているが、誰が何処に何を売ろうが関係ないし、それに僕はサラリーマンだ。ぐらぐら頭にきた僕は、
「お前はそんなことだから、何時まで経っても成長しないんだ!」
と怒鳴ると、「ガシャン!」と受話器を切った。しばらく腹の虫がおさまらなかった。
友だちに会って、
「もう中野とは絶交する。あいつはひどい奴や!」
と言っていた。