2015年12月18日金曜日

十.韓国編-Ⅰ人々の中で-7

十.韓国編-Ⅰ人々の中で-7

このブログは一つの物語です。


初めての方は、1からお読み下さい。


「こりゃ、何か?」 
と女に尋ねると、 
「ここに、スル」 
と言う。 
「冗談じゃねぇ、こんなもので出来るか!」 
と怒鳴りちらし、カーンと洗面器を蹴飛ばす。すると、女は 
「デキルヨ!」 
と叫ぶと、パッとスカートと下着を脱ぎ捨て、前かがみになり、大きく足を広げ、ジョゴジョゴと迫力満点の音を立てて放水しだした。目の前をキラキラとした一本の筋が流れた。金属の洗面器がパンパンと鳴った。部屋が狭く密閉しているからか、その音は甲高く響いた。僕は放心状態で、飛ぶ一本の筋を眺めた。 
 それは金子光晴が『洗面器』という詩の前書きに、嫖客の前の前で、しゃぼりしゃぼりとさびしい音を立てて尿をすると書いた、広東の女の風情とは天と地ほどの差があった。 

       洗面器のなかの 
       さびしい星よ。 
       くれてゆく岬(タンジョン)の 
       雨の碇泊(とまり)。 

・・・と詩人は歌ったが、僕の場合は、洗面器のなかのけたたましい音よ、だった。 
「うーん」 
声が出なかった。完敗である。 
「勝てんなぁー」 
と、呟くと、しょうがないので、痩せた骨の触る女を引き寄せた。 
そして、どうという事もなく当り前に金を払うと、女と女将が、あの時あんなに高く見えた赤壁の前に立って手を振り、いつまでも僕を見送った。 
その後、僕はこの勧告の遊郭の裏びた雰囲気が気に入って、時々、遊びに出掛けるようになった。女、というよりも建物などの雰囲気の良い所を選んで行った。 
日本人と言えば、ぼられる事は間違いなかった。そこで僕は台湾人、というふれ込みで遊郭ののれんをくぐった。 
「ワタシは台湾人だ、台湾人だ」 
と日本語で何度も言い、 
「台湾人だから安くせよ!」 
と、また日本語で叫ぶ。 
こうして台湾人の客は、部屋でワイワイ言って女と日本語で喋りまくり、 
「ワハハハ」 などと、気分のいいもんである。

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