十.韓国編-Ⅰ人々の中で-6
女将が「ワワワワ」と叫ぶと、僕を取り巻いていた女、小僧らは、ザァーと波が引くように奥へ消えて行った。
「いやぁ、とんだ目にあった」
と服を直していると、さっきまで目を三角にして「ワァワァ」行って僕をつかんで離さなかった女が、急にニヤニヤして僕の腕を持って甘えた声を出している。現金なもんだ。
しかし、僕はまだ諦めてはいなかった。チラッチラッと戸の方を見ると、さっきは慌てて気づかなかったが、鍵といっても錠を降ろしているだけである。
「うむ、あれなら簡単に外に出れるなぁ」
と、観察していると、女将が、
「悪かった、悪かった、まぁ奥で茶でも飲んでくれ」
と言うので、女に案内され窓のない小さい一戸建ての部屋に入る。床にオンドルが敷いてあった。
コタツの中に入って煙草を吸い、じぃーっと女の顔を見る。
俺をカフェーだと言って騙した女、鬼のような顔をして叫んだ女、髪を振り乱して俺をつかんで離さなかった女。
「うむー、こういう女を抱く気にはなれんなぁ」
と煙草の煙の向うで揺れる女を眺めては、煙を吐いていた。
「よし、隙をついて逃げてやれ」
と、再び決心を固めた僕は、作戦を練ると、
「おい、茶をもう一杯くれ!」
と、女に言う。
女は外へ出て行くが、しっかりと鍵を掛けていき、その時、僕の靴を持って行ってるような気がした。
「うむ、なかなかやるなぁ・・・」
あの靴はゾックだから惜しくもない、裸足で逃げれば良い、靴など何処ででも売っているわい。
女が茶を持って入って来た。湯気が立っているウーロン茶のような茶色い茶をすすりながら、さて、どうしたもんか?と案を練る。そうだ!便所へ行く、と言ってそのままずらかればいい、うむ、これでいい。
「おい!便所は何処か?便所へ行く」
と、女に言うと、女はしばらく考えていたが、すぐ、戸を開け、
「ワワワワワ」
と、叫んだ。そして、戸が開いたかと思うと、昔の金属(かね)の洗面器を小僧がほったり投げた。・・カランカランと転がる洗面器。デュマイでビールを入れられた、あの洗面器だ。
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