五.アラスカの夏-4
このブログは一つの物語です。
初めての方は、1からお読み下さい。
ようやく着いた港へ降りると、何事もなかった様に象の鼻のような機械から、船倉へチップが流し込まれていた。喫水は下り、船体はだいぶん沈んでいた。皆に見送られながら船のタラップを昇っていくが、足が重く、この地に未練が残った。
幾日かして、忙しい出航準備をなんとなく惰性で終えると、ぼんやりと岸を眺めていた。すると、車が近づき、止まったかと思うと、人が近づいてきた。キャッシーと友人の女の娘だ。隣町から駆けつけてくれたのだ。「見送りに来た」と言い、船内で食べてくれ、とサーモンの燻製を持って来てくれた。彼女の顔は赤く紅潮していた。僕にサーモンの燻製を手渡すと、
「今度、いつ来るか?」
と、尋ねた。目が大きく見開いていた。そのくるくると動く瞳を見ると、何も言えず、
「来年、雪が溶けたらだ」
と、嘘を言ってしまう。
スタンバイの汽笛が鳴った。僕はおもわず彼女を抱きしめる。髪からは、やはり甘酸っぱい薫りがした。急に何か、込みあげるものがあり、もう、こういう事はよそう、と静かに思った。再び彼女を強く抱きしめると、「グット、バイ」と、言って彼女の手を握った。息が熱かった。彼女も、「グット、ラック」と言って僕の腕を強く握った。ゴールドのキラキラとする髪が潮風になびき、何本かの金筋が青い海を背に舞った。
タラップを下る彼女の背に陽が射し、時折、振り返っては手を振る姿が何時までも、僕の前から小さくならなかった。
キャッシーの立つ小さな岩壁を僕の船は離れてゆく。もう、おそらく逢う事のないキャッシーに幾度も手を振る。あの夢のような数日間を振り返り、振り返り、「さらば、アラスカ、さらばキャッシー」と呟いた。
風が冷たく、アラスカの夏は終わろうとしていた。
初めての方は、1からお読み下さい。
ようやく着いた港へ降りると、何事もなかった様に象の鼻のような機械から、船倉へチップが流し込まれていた。喫水は下り、船体はだいぶん沈んでいた。皆に見送られながら船のタラップを昇っていくが、足が重く、この地に未練が残った。
幾日かして、忙しい出航準備をなんとなく惰性で終えると、ぼんやりと岸を眺めていた。すると、車が近づき、止まったかと思うと、人が近づいてきた。キャッシーと友人の女の娘だ。隣町から駆けつけてくれたのだ。「見送りに来た」と言い、船内で食べてくれ、とサーモンの燻製を持って来てくれた。彼女の顔は赤く紅潮していた。僕にサーモンの燻製を手渡すと、
「今度、いつ来るか?」
と、尋ねた。目が大きく見開いていた。そのくるくると動く瞳を見ると、何も言えず、
「来年、雪が溶けたらだ」
と、嘘を言ってしまう。
スタンバイの汽笛が鳴った。僕はおもわず彼女を抱きしめる。髪からは、やはり甘酸っぱい薫りがした。急に何か、込みあげるものがあり、もう、こういう事はよそう、と静かに思った。再び彼女を強く抱きしめると、「グット、バイ」と、言って彼女の手を握った。息が熱かった。彼女も、「グット、ラック」と言って僕の腕を強く握った。ゴールドのキラキラとする髪が潮風になびき、何本かの金筋が青い海を背に舞った。
タラップを下る彼女の背に陽が射し、時折、振り返っては手を振る姿が何時までも、僕の前から小さくならなかった。
キャッシーの立つ小さな岩壁を僕の船は離れてゆく。もう、おそらく逢う事のないキャッシーに幾度も手を振る。あの夢のような数日間を振り返り、振り返り、「さらば、アラスカ、さらばキャッシー」と呟いた。
風が冷たく、アラスカの夏は終わろうとしていた。
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