2011年7月20日水曜日

ワタの旅と冒険-12 (砂漠の果ての-2)

このブログは一つの物語です。
初めての方は、1からお読み下さい。
ワタの旅と冒険-1


 この街の人間は働いて居る人がいないんじゃないか?と思う程、夕方になれば人がゾロゾロ出てくる。白いターバンを巻き、チャドリを着た男達、女は黒である。アラビア人の女は黒いベールで顔を隠している。旦那しか顔を見せられぬ、という回教の教えがあるからである。
 タンジールでアフリカ上陸第一歩の時、チャドリ姿の女らが大勢集まって水酌みをしていたので、これは良い被写体になる、とカメラを向けると、石がびゅうびゅう飛んできた。それでも逃げながら、シャッターを押し続けたが……大変である。
 この件以来、アラブでの写真の撮り方は被写体の距離と露出をあらかじめ目測しておき、素早く振り向きシャターを押すようにした。睨まれようが、どうしようが、今の僕の迫力のある格好に文句を言う奴は少ないはずだ。
 カスバは入りくんで迷路のようになっていて歩き廻ると幾度か同じ場所に出る。しばらく、ぐるぐる廻っていると道が放射線状になっている事に気づき、ようやく迷わず歩けるようになった。
 露店が立ち並び、人がワァワァ言っている。白人を含め外国人らしき者は見当らぬ、アラブ人の街である。子供らが、おもしろがってついて来る。此処の子供は午前、一、二時まで外で遊ぶが――――おまえら、勉強せんでええんかい?



 カスバを歩いていて、ふと、気がつくとベルトから紐でくくり、Gパンの後ろポケットに入れていた巾着がぶらぶらと腰から垂れ下がっている。さすがのアラブ人もポケットから財布を抜いた、と思ったら口をぎゅうと締めた巾着で、おまけに紐がついている、男の人相は悪いというので諦めたのだろう。しばらくして歩いていたら、また巾着がぶらぶらしている。泥棒の多い所だなぁ、さすが、アヂババの国だ。

 安ホテルの親父にさらに安くさせ、ひさしぶりに快適な部屋の住人となり、
「いやぁー、土管に比べりゃ、天国だぁー」
と、ふわふわのベットに横たわり、ふと、窓の外を見ると、隣のビルのベランダで若い娘がスリップ姿で編物をしていた。



「いやぁ、こりゃ、また最高だぁー」
と、ますます機嫌が良くなると、僕の忘れかけていた性欲がむらむらと蘇ってきた。カサブランガといえば、遊ぶ場所があるはずだ。それに此処は物価が安い。「よし、今夜だ!」と、故郷の街にカサブランガというギラギラした看板の店があったのを思い出し、カスバか何処かにギラギラの店があろう、と独身男の悲しい妄想はどんどん、広がってゆき、期待に胸を膨らませていった。
 風呂上り快ち良い風に吹かれカスバを歩くが歩けど歩けど、ギラギラの店は無く、白い建物ばかりである。しょうがないので行きずりの男に「あれ」は何処にある。あろうはずだい「あれ」と尋ねると、アラブ人にしては珍しく親切に案内してくれる、という。
 狭い露路へ入り、まさしく迷路のような道をぬけ、白い建物の前へ立ち、狭い入口の木戸をトントンと叩くと、ギィーと扉が開いた。な、なんと、そこには広い部屋にダーバーンを巻いた男達がズラリと何十人も並んでいた。列が幾つもあり、丁度、宝くじを買うように幾つもの列が左右へ蛇のように伸びていた。列の先頭を見ると、薄汚いカーテンが張ってあるので、覗いてみると、女が蛙のような格好をして天井をみつめていた。その傍で男がズボンを脱ごうとしていた。
「うわぁ、トイレみたいだなぁ・・・」
と、急にアラビアンナイトのロマンチックな夢が消え果てて、「こりゃあかんわ」と、そこを出た。が、気分は壊したものの、今夜の決意は固く、さらに夜のカスバをさまようと、イスラムの寺院のような白い建物を背に黒いチャドリを着た娘が立っていた。顔はベールで隠していたが、眼が奇麗である。
「ひょっとしたら・・・・・・・?」
と、引き返し、なにげない顔をして再び彼女の前を通ると、彼女が指で手招いていた。
「やっぱり・・・・・・」
露路をぬけ入口の狭い建物の中へ入ると、さらに奥に部屋があった。眼の奇麗な娘だ、とついて来たが、黒い覆面を取ると、鼻と口が異様に大きくアンバランスな顔立ちをしていた。眼だけでは人の顔は分からぬものである。


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