このブログは一つの物語です。
初めての方は、1からお読み下さい。
ワタの旅と冒険-1
海峡は蒼く澄みきっていた。これが地中海の水か、とキラキラ光る海をデッキに片足を掛けて眺める。
六時間程で海峡を渡りきり、再びヨーロッパかアラビア、アフリカか分からぬ街、タンジールへと降り立った。しかしながら、黒人やアラブ人の数が多い、白人は斑らである。アフリカは幾度か馴染みがあるが、どう見てもアラビアの光景である。
やはり、たかりかポン引きか、わけの分からぬ奴が「フレンド、フレンド」と言っては付きまとってくる。そこでマドリッドで買った飛び出しナイフを彼の眼の前で「バシッ」と出すと、男は「フィー!」と口から無声音を発して、目の前から立ち去って行く。こりゃ便利がいいや、いろいろ言わずに済む、と小さいナイフを首から下げるようにした。これで変な連中も寄りつきまい、これからは治安の悪い土地である。金はドル札を腰に巻いていた。パスポートも一緒である。この腰巻きを取られたら終いだ。肌に着けているから、これを奪われる時は格闘して負けた時である。
モロッコは皮製品が安いからと、馬皮のカーボイハットを買い、皮の腕輪も付けると、とうとう山賊かなにか、訳のわからぬ格好になってしまった。
通りを歩いていると、向うのカフェーでアメリカ人らしい金持ちの夫婦が指を指して笑っていた。何を言っているのか分からないが、完全に馬鹿にした笑い方であった。頭にきた僕は、そのカフェーに入ると彼らの隣に座り、メニューの高い順から注文した。次から次と御馳走やらワインが運ばれてくると、隣の夫婦は目を白黒させて驚いていたが、やがて席を立つとカフェーから出て行った。
「だまぁみやがれ、俺りゃ乞食じゃねえぞ!」
と、腹の虫はおさまったが、腹に入りきれなかった。おかげで一週間分の食費を使ってしまうことになってしまった。
タンジールからフランス製の立派な汽車に乗り込むと、一路、カサブランカへと向う。相向いのアラビア人二人がしきりに煙草をすすめるが、絶食を機会に禁煙した僕は、
「ノォ、スモーク」
と断ると不思議そうな顔をした。アラビア人は酒は飲まぬが、煙草はほとんどの人が吸うのである。今度は僕の首から下るナイフを指さして人指し指を立てて横に振る。
「それはいかん!」
という意味らしい。僕が
「ビスケットを食うか?」
と、差し出すと、また人差し指を横に振り、夕陽を指さして、あれが沈むまで口に物を入れてはいけない、とジェスチャーする。回教従は一年に二ヶ月程、肉体を清める為、太陽が昇っている間中、絶食をするが、丁度、今がその時期であるらしい。
窓の外には「飯を食ったらいかんぞ!いかんぞ!」と夕陽が輝き荒野の地平線へ沈んでいこうとしていた。
カサブランカに着き、モロッコの物価としては汽車賃が高過ぎるなぁ?と不思議に思いカサブランカの駅員に尋ねてみると、なんとタンジールの駅員から二倍もの料金を取られていた。恐ろしい国である。さすが、アヂハバの国だ。「うむ、こりゃ油断出来んなぁ。」と気を引き締め、それからは、値段を聞いて物を買ったり食ったりするようにした。価格を値切るのは後進国廻りで慣れているが、アラブ人との交渉は初めてであった。さすがに高くふっかける。大抵、倍は高い、価格のついてないものもある。「ハウマッチ(いくらかい?)」と言うと、僕の靴からズボン、服、顔と身体中、なめ廻して見て「幾ら」と言う。馬鹿にした話だ。言い値の三分の一位を言い、「ノォ」と断られると、帰る真似をする。すると、必ず背中で「オッケーオッケー」と叫びながら、おっさんがニコニコ顔で追いかけてくる。
安い小物を土産に買おう、と三十分程いろいろ冷かして値切りに値切り、さすがのアラブ人も「せこい、東洋人やなぁー」と呆れて
「いいから、持って行け!」
と投げ捨てるように手を振ると
「それじゃ、これを三十個貰おう」
「それはないぜ、マスター」
初めての方は、1からお読み下さい。
ワタの旅と冒険-1
海峡は蒼く澄みきっていた。これが地中海の水か、とキラキラ光る海をデッキに片足を掛けて眺める。
六時間程で海峡を渡りきり、再びヨーロッパかアラビア、アフリカか分からぬ街、タンジールへと降り立った。しかしながら、黒人やアラブ人の数が多い、白人は斑らである。アフリカは幾度か馴染みがあるが、どう見てもアラビアの光景である。
やはり、たかりかポン引きか、わけの分からぬ奴が「フレンド、フレンド」と言っては付きまとってくる。そこでマドリッドで買った飛び出しナイフを彼の眼の前で「バシッ」と出すと、男は「フィー!」と口から無声音を発して、目の前から立ち去って行く。こりゃ便利がいいや、いろいろ言わずに済む、と小さいナイフを首から下げるようにした。これで変な連中も寄りつきまい、これからは治安の悪い土地である。金はドル札を腰に巻いていた。パスポートも一緒である。この腰巻きを取られたら終いだ。肌に着けているから、これを奪われる時は格闘して負けた時である。
モロッコは皮製品が安いからと、馬皮のカーボイハットを買い、皮の腕輪も付けると、とうとう山賊かなにか、訳のわからぬ格好になってしまった。
通りを歩いていると、向うのカフェーでアメリカ人らしい金持ちの夫婦が指を指して笑っていた。何を言っているのか分からないが、完全に馬鹿にした笑い方であった。頭にきた僕は、そのカフェーに入ると彼らの隣に座り、メニューの高い順から注文した。次から次と御馳走やらワインが運ばれてくると、隣の夫婦は目を白黒させて驚いていたが、やがて席を立つとカフェーから出て行った。
「だまぁみやがれ、俺りゃ乞食じゃねえぞ!」
と、腹の虫はおさまったが、腹に入りきれなかった。おかげで一週間分の食費を使ってしまうことになってしまった。
タンジールからフランス製の立派な汽車に乗り込むと、一路、カサブランカへと向う。相向いのアラビア人二人がしきりに煙草をすすめるが、絶食を機会に禁煙した僕は、
「ノォ、スモーク」
と断ると不思議そうな顔をした。アラビア人は酒は飲まぬが、煙草はほとんどの人が吸うのである。今度は僕の首から下るナイフを指さして人指し指を立てて横に振る。
「それはいかん!」
という意味らしい。僕が
「ビスケットを食うか?」
と、差し出すと、また人差し指を横に振り、夕陽を指さして、あれが沈むまで口に物を入れてはいけない、とジェスチャーする。回教従は一年に二ヶ月程、肉体を清める為、太陽が昇っている間中、絶食をするが、丁度、今がその時期であるらしい。
窓の外には「飯を食ったらいかんぞ!いかんぞ!」と夕陽が輝き荒野の地平線へ沈んでいこうとしていた。
カサブランカに着き、モロッコの物価としては汽車賃が高過ぎるなぁ?と不思議に思いカサブランカの駅員に尋ねてみると、なんとタンジールの駅員から二倍もの料金を取られていた。恐ろしい国である。さすが、アヂハバの国だ。「うむ、こりゃ油断出来んなぁ。」と気を引き締め、それからは、値段を聞いて物を買ったり食ったりするようにした。価格を値切るのは後進国廻りで慣れているが、アラブ人との交渉は初めてであった。さすがに高くふっかける。大抵、倍は高い、価格のついてないものもある。「ハウマッチ(いくらかい?)」と言うと、僕の靴からズボン、服、顔と身体中、なめ廻して見て「幾ら」と言う。馬鹿にした話だ。言い値の三分の一位を言い、「ノォ」と断られると、帰る真似をする。すると、必ず背中で「オッケーオッケー」と叫びながら、おっさんがニコニコ顔で追いかけてくる。
安い小物を土産に買おう、と三十分程いろいろ冷かして値切りに値切り、さすがのアラブ人も「せこい、東洋人やなぁー」と呆れて
「いいから、持って行け!」
と投げ捨てるように手を振ると
「それじゃ、これを三十個貰おう」
「それはないぜ、マスター」




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