2011年7月18日月曜日

ワタの旅と冒険-10 (南下-2)

このブログは一つの物語です。
初めての方は、1からお読み下さい。
ワタの旅と冒険-1


 再び列車に飛び乗るとジブラルタル海峡の港町、ヨーロッパ最南端のカジスへと降り立つ。ヨーロッパとアラブ、アフリカの文化をごっちゃにしたこの街は様々な建物が立ち並び、人々も民族十色である。ジブラルタルを渡る白い船は豪華客船であった。出港は明朝だ。
 岩壁をブラブラしていると、海に向って座って、長いパンをむしゃむしゃ食っている日本人らしい男を見つけた。髪はぼうぼう髭も僕と同じ位生えていて、もと白であろうTシャツは完全に灰色になていた。
「あんた、日本人かえー?」
と、声をかけると、向うも僕と同じ質問をする眼をして、僕を見上げた。
 彼はシベリア鉄道経由でヨーロッパに入ったらしい。
「いやぁーずっと野宿で寒かった」
と言っていた。
「モスクワが特に寒かった」
とも言っていたが、モスクワは寒かろう。
 彼は登山用のザックを持っていたので声をかけたのだが、登山家ではないらしい。しかし、アフリカに渡ってキリマンジャロに登るとも言っていた。-よく分らない。登山家だったらヨーロッパアルプスに目がくらむはずだがアルプスには行ってない、と言う。金がほとんどないので、街を避けて旅行してきたらしい。むろん、日本へ帰る旅費などはない。
 夕方になり暗くなって来たので、待ち合い室で寝ろうと思ったが、鍵がかかって立ち入り禁止である。
「弱ったなぁー」
と思っていると、彼がニコニコして岩壁の向う岸を指さした。土管が積み重ねてあった。
「あれがいい。あれは最高や、今まで何度か寝た事があるが、あれば暖ったかい」
と、称賛する。あれだけ土管を誉る男も珍しい。
 しょうがないので我々は土管ホテルへ向うことにした。岩壁をずうーっと回り込み対壁行くと辺りは大分暗くなっていた。土管を束ねた傍の土面の上になにかあるような気がして良く見てみると、土面の上に毛布をきちっと敷き、その上に若い男女二人がきれいに二列に並び、毛布をきちっと羽織って空を向いて寝ていた。
「うむ・・・・」
思わず感心してしまう。毛布に皺がない程、ぴしっと着て並んで寝ているが、その几帳面さで土の上に寝ているところが凄い。月が輝いていた。

 翌日、ジブラルタルを渡る船に乗ろうと、順番を待って並んでいると、この男、長い五十センチはあろうフランスパンをしっかりと握り、時折思い出したように齧っていた。口でぐにゃぐにゃと噛んで、しばらくしてまた齧る。それも少量をである。
「あんた、めんどくさい食い方をするなぁ」
と言うと、
「こうして食べると喉が乾かないんやぁ」
と言う。ヨーロッパでは生水は買わなければならない。それに衛生上、問題がある。僕がヨーロッパへ渡って昼間からビールを飲みアル中予備軍みたいになってしまったのも、その事による。
 それで、少しづつ口に入れ唾で溶かしながら食べれば水代は助かる。パンは安いし腐らない。なんと、この五〇センチのフランスパンを五日程かけて食う、という。これで数ヶ月生きている、という。水なし、おかずなしでだ、たいした根性。
 旅行中は、なるたけ現地の旨い物を食い散らかしてやろう、と思っていた僕は、この托鉢僧の様な奴と早く別れよう、と思った。同一行動をして一人だけ旨いものを食う訳にはいくまい。





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