こうして中野運転手の運転する、スプリングの恐ろしく硬いバスは山の裾へとさしかかる。大分、路面に雪が見えだした。カーブの多い山道である。かなり積もり積もって道がキラキラしていた.
「そろそろチェーンを巻こうか?」
と、中野が不安げに言うと
「おう」
と言って、三郎らが手伝おうと立ち上がろうとする。すると、眠っていたと思った奇想天外の山さんが、中野の隣の助手席で、腕を組んだまま薄目を開けて、
「かまわん、行け!」
と、ドスのきいた声を出す。
「えー!?」
と、中野はハンドルを握りながら隣の山さんの顔を見る。山さんは腕を組み、また目を閉じていた。大事な客を乗せた中野のツアーなのに山さんも何を考えてるんだろう?分からん人である。立ち上がりかけた三郎らも、「またか!」という顔をして座席へ座り直す。
いよいよ明け方、現地に着くとツアーバスは何十台も並び、辺りは白銀一色であった。
「さあ、皆さん、女の人が着替えますから男の人は外へ出てください」
と、観光会社のエージェントみたいな声を出して中野が叫ぶと、僕らは眠い目をこすりながらごそごそ外へ出ろうとする。ふと見ると、中野はサングラスを掛け、運転席でハンドルを握って知らん顔をしている。
「おい、お前は出なくていいのか?」
と、不思議そうな顔をして尋ねると、
「わしかい。ああ、わしはいいんや」
と言う。
「ふーん」
「でも、お前、女の娘らが嫌がってるぞ。出た方がいいんじゃねえか?」
と、さらに言うと、中野はしっかりとハンドルを握って、ぐっと顎を突き出すと、
「わしは前を向いとくんや」
と力強く言うので僕は納得してタラップを降りた。
「寒いなあ・・・」
彼のこの計画はずっと以前より練られていたものと思われる。
このヤミ・ツアーは思ったより収益が上がらず、金額の割りには気を使う?という人並みの理由で、中野はもうツアーを組もうとはせず、僕ら仲間とスキーへ行くようになった。
確かに中野のスキーはうまくなっていた。「おかしいなぁ・・・?何をしたらあんなにうまくなれるのだろう?」と、中野の滑るのを見ていた僕は、「回数に勝るものなし」と、毎週スキーに没頭するようになった。
九州からだと土曜の夕方、高速を五時間走り、明け方、中国のスキー場に着き、夕方まで滑って、再び五時間走って帰る、というハードスケジュールとなる。仲間の人数の多い時はマイクロで行っていたが、少ない時は高速代金を安くするためなるべく声を掛け合って人数を集めて行っていた。

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