このブログは一つの物語です。
トイレの話のついでであるが、中野はおもしろいことに、小用は絶対屋根の下ではしない。その理由はさだかでないが、彼の故郷である土佐の偉人、坂本竜馬がやはり厠(かわや)では小用をしなかった、というのを僕は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という本の中で読んだことがある。竜馬を尊敬しきっている中野は、それを真似して忠実に実行していたのではないかと思われる。
あの、例のアパートの二階からも窓を開け、バラバラバラッと樹の葉によくかけていた。僕が「おい、そんなことをしたら大家や一階の奴らに怒られるぞ!」
と言うと、「いやぁ、大家は樹に肥やしをやって貰って喜ぶし、下の奴らは天気雨ぐらいしか思っとらん。
と、馬鹿なことを言っていた。
奇想天外の山さんが
「中野がうちへ来ると外で小用するので女房がうるさい。雨が降っとるのに『ああー寒い寒い』と、わざわざ外に出て小便するが、外ですると何か良いことでもあるのか?君、知っとるか?」
と、深刻な顔をして尋ねていたが、そう言えば、うちでもよく外でしてお袋が後で黙って水を掛けていた。いずれにしても、たいした理由も無いことを誰になんと言われようと、誰に迷惑かけようと、信念をもってつらぬき通すところが中野の良いところで分からんところである。
そういう彼は、何を思ったか?突然、当時流行し始めた“ホッカホッカ弁当”をやると言いだした。
「あれはいい、儲かる!」
と言っていたが、弁当で暮らしている自分が切実にそう思ったのであろう。彼は準備金を借金で賄(まかな)うと、学生時代より暮らしていたあのアパートの近くに弁当屋を開いた。
此処で当然のごとく彼はブクブク太りだす。思うぞんぶん飯が食えるとあって、見境がなくなったのだろう。作っては食い、食っては作り、さらに作って売る、という具合である。誰が客だが分からない。
だが、中野は世の中の人は皆んな自分と同じぐらい大飯食らいだと思っているのか、気前よく大盛りに飯を盛っていたから「あそこの店は飯が大盛りだ」という評判がたち、客が増えてきて彼の店は大繁盛しだした。僕が尋ねて行くと、忙しく働く中野の姿があった。その頃、クライミングに毎週行き、仕事も忙しかった僕は弁当屋の椅子に腰掛けると、
「ああ、えらい、えらい」
と言った。「えらい」というのは僕の口癖で関西一円の方言で「きつい」とか「しんどい」という意味である。若い頃から日本中放浪していた僕は、いろいろな土地の方言が入り混じっていて、その中の語呂の良い、気に入ったものを使っていた。
その「えらい」と力強く言う僕の言葉を聞いた中野は自分の事を「えらい!」「よう働く、あんたは偉い」といったものと勘違いしたのか、ジャーと鳥天を揚げながら、くるっと振り向くと、にやっ、と笑って「偉いやろう・・・・」と誇らしげに言った
トイレの話のついでであるが、中野はおもしろいことに、小用は絶対屋根の下ではしない。その理由はさだかでないが、彼の故郷である土佐の偉人、坂本竜馬がやはり厠(かわや)では小用をしなかった、というのを僕は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」という本の中で読んだことがある。竜馬を尊敬しきっている中野は、それを真似して忠実に実行していたのではないかと思われる。
あの、例のアパートの二階からも窓を開け、バラバラバラッと樹の葉によくかけていた。僕が「おい、そんなことをしたら大家や一階の奴らに怒られるぞ!」
と言うと、「いやぁ、大家は樹に肥やしをやって貰って喜ぶし、下の奴らは天気雨ぐらいしか思っとらん。
と、馬鹿なことを言っていた。
奇想天外の山さんが
「中野がうちへ来ると外で小用するので女房がうるさい。雨が降っとるのに『ああー寒い寒い』と、わざわざ外に出て小便するが、外ですると何か良いことでもあるのか?君、知っとるか?」
と、深刻な顔をして尋ねていたが、そう言えば、うちでもよく外でしてお袋が後で黙って水を掛けていた。いずれにしても、たいした理由も無いことを誰になんと言われようと、誰に迷惑かけようと、信念をもってつらぬき通すところが中野の良いところで分からんところである。
そういう彼は、何を思ったか?突然、当時流行し始めた“ホッカホッカ弁当”をやると言いだした。
「あれはいい、儲かる!」
と言っていたが、弁当で暮らしている自分が切実にそう思ったのであろう。彼は準備金を借金で賄(まかな)うと、学生時代より暮らしていたあのアパートの近くに弁当屋を開いた。
此処で当然のごとく彼はブクブク太りだす。思うぞんぶん飯が食えるとあって、見境がなくなったのだろう。作っては食い、食っては作り、さらに作って売る、という具合である。誰が客だが分からない。
だが、中野は世の中の人は皆んな自分と同じぐらい大飯食らいだと思っているのか、気前よく大盛りに飯を盛っていたから「あそこの店は飯が大盛りだ」という評判がたち、客が増えてきて彼の店は大繁盛しだした。僕が尋ねて行くと、忙しく働く中野の姿があった。その頃、クライミングに毎週行き、仕事も忙しかった僕は弁当屋の椅子に腰掛けると、
「ああ、えらい、えらい」
と言った。「えらい」というのは僕の口癖で関西一円の方言で「きつい」とか「しんどい」という意味である。若い頃から日本中放浪していた僕は、いろいろな土地の方言が入り混じっていて、その中の語呂の良い、気に入ったものを使っていた。
その「えらい」と力強く言う僕の言葉を聞いた中野は自分の事を「えらい!」「よう働く、あんたは偉い」といったものと勘違いしたのか、ジャーと鳥天を揚げながら、くるっと振り向くと、にやっ、と笑って「偉いやろう・・・・」と誇らしげに言った
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