2011年12月12日月曜日

25今どき破天荒な男たちの物語

このブログは一つの物語です。

初めての方は、1からお読み下さい。
今どき破天荒な男たちの物語の1 



 このコアラのようにおとなしい洋ちゃんは山に入ると見事に変身した。じーっと、ドテラを羽織り丸くなってコタツに入りテレビを見ていた男が、突然、強烈なパワーとスピードで登攀する。彼の技量、体力はすさまじく日本人として有数の記録を残している。

 特に氷壁登攀が得意でアイスハンマーで氷を打ち砕いて登ってゆく。何処にこのパワーが潜んでいるのか?と僕らの謎のひとつである。
「洋ちゃんは日頃なるべく動かないようにしてエネルギーを充電してるんじゃないか?」と中野が言っていた。

 その洋ちゃんがもうひとつ変身する時がある。酒を飲んだ時である。
あのおとなしい男が唾(つばき)を飛ばして喋べりまくり、人をつかまえては議論して、絶対自分の意見を譲らない。“ゼロ戦の性能”について中野と議論になり、中野につかみかかったことがある。また、皆んなで花見をした時、かなり飲んだらしく「うぉー」と奇声をあげていた。そしてついに、「おい、山下!お前、俺の目を見たろ!」とか言っているので、こりゃかなりやばいなぁと思っていたらとうとう「うぉー」と膳のテーブルをひっくり返した。皆んな、さっ、と彼から離れるが北さんという先輩が彼をなだめようとしていた。彼も酒飲みである。洋一はついに一升瓶を握ると、「うぉー うぉー」と叫びながら大きく振り出した。と、そこへ、頭を上げた北さんの頭にゴー、ンと一升瓶が当たり、彼は頭を押さえ込んで倒れ込んだ。

ビンが割れなくて良かった。さいわいものである。
僕らの宴会はこのようにすざまじく、いつも怪我人が出ていた。湖畔でやる宴会は水中の大混乱となり、胸までザブッ、ザブッと水に浸りながらつかみ合ってあばれる。焚き火でバーベキュー大会をやれば、またまた大乱闘となり、僕は焚き火の中に突き飛ばされ、髪は焼き縮れ、額には全治二週間のやけどを負い、散々な目にあったことがある。

 街は費用が高いのと、被害総額が大きいので、僕らの宴会はいつも野外で行われていた。
ある雪の積もる頃、宴会をすることになって山奥の、以前から見つけていた、使われてないプレハブの小屋に侵入した。が、そこでも大乱闘となり、「ぎゃぁー」とか叫んで小屋の屋根に飛びついたりしてそれは大変なものであった。翌朝見ると、そのプレハブは散々なものとなり、風がスースーと吹き抜けていた。

 この宴会のすさまじいのは山や特有のようで、宮崎の岩峰の下で毎年、クライマー祭りといって地元の山岳会が主催して開かれる大宴会があるが、これが大変なもので、踊るぐらいなら可愛い方で、一升瓶を握って眼下三百メートルはあろう切り立った崖の上を、「うぉう うぉう」と吠えながらよたる、恐ろしい男も居る。彼らは場が盛り上がると、「よーし 街へ飲みに行くぞ!」と叫んで酔っぱらいの運転する車に乗り込む。ぞろぞろ、乗るは乗るは、トランクに四人、座席に七、八人、人間が折り重なるように乗り込み、窓ガラスに潰され、ぺっちゃんこになった人の顔が幾つも見える。奇術か何か、悪い夢を見ているようである。
恐ろしいことに、このびっしりと重くなった車高の沈んだ普通乗用車は、ずるずるずると街の方へ消えて行った。


この地元のクライマーは猛者ぞろいで、僕らと同じように同年代の仲間が揃っていたが皆、僕らよりだいぶん年上で三十代が多かった。むろん独身ばかりである。彼らの両親がクラブの先輩のリーダーに「器量や頭が悪うでも、なんでもいいから嫁を貰うように言うてもらえんかい」と嘆願していた、という話である。
彼らは土地柄、大変な大酒飲みでそれも焼酎を飲む。僕らが深夜、この岩峰の下の道路に車を乗りつけると彼らが、ざぁーと押し寄せて来て、「一杯やりましょう!」と誘いに来る。
そこで一杯どころか、何杯にもなって大宴会となるのだが、彼らの凄いのは翌朝僕らのテントに来て「おはようございます。向かい酒です。あっちで一緒にやりましょう」とまた誘いに来る。「今日は難しいルートを狙っていたのに・・・飲み過ぎたなぁー」と二日酔いの頭を押さえながら、ビールでもなめるか・・・・と彼らの所へ歩いて行くと、な、なんと、彼らは大きなコッヘルにむらむらと焼酎を波打たせて飲んでいた。

 彼らは朝からこんなに焼酎を飲んで岩を登るつもりだろうか・・・?ふらふらして落ちでもしたらどうするつもりだろう?パートナーも酔っていたら墜落を止めきれまいに・・・と僕の心配をよそに、彼らはガチャガチャと登攀具を付けると「うぃ~っ」とよたりながら岩壁の方へ向かって行った。





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