2013年4月3日水曜日

76今どき破天荒な男達の物語


 さて、披露宴は盛り上がったが気になったのは中野である。洋一の母や親戚の者がビールを注ぎ、頭を下げて挨拶に廻って来ると、中野はさっと立ち上がると
「いやぁ、良かったですねぇ、お母さん。いやぁ、本当に良かった!」
と言って、お母さんの肩をポンポン叩く。隣で僕が
「お前、表現がオーバーだと、何かいやらしいからやめろ」
と、ささやくと、中野は不満そうな顔をする。
「お前の良かったというのは、ようやく結婚出来て、やっと結婚出来て良かったなぁという意味に聞こえるぞ」
と、さらに彼の耳もとでささやくと
「ははは、分かるかい?」
と僕の方を向いて笑った。
 今度は洋一の兄がビールを持って廻って来ると、中野はまたもやさっと立ち上がり
「いやぁ、お兄さん良かったですねぇ、いやぁ、本当に良かった」
と、お兄さんの両手を握り、振りながら叫んでいた。
 僕はもう何も言わずにビールを注いで飲んでいた。

 洋ちゃんの新しいマンションと呼ぶアパートは、やはり温泉郷から離れぬ圏内に止まった。
 僕らは引越しを手伝おうと彼のアパートに行って唖然とした。彼ら夫婦は荷物を何もマトメていないのだ。二人とも引越しをしたことがないのである。
 僕らは箱を何処からか持って来ると、乱暴にザァーと、テレビやタンスの上に乗っている物を次々に流し込んだ。驚くことにこの洋一という男、物持ちが良く、~小学校~年と書かれた筆箱や、昔、中学生時代に作ったであろう地球儀なぞが転がっていた。
 婆ちゃんから貰ったという大正時代の桐のタンスを、奇想天外の山さんのトラックに積み込むと、ガタガタと乱暴に走って新しいアパートへと向かった。

0 件のコメント:

コメントを投稿