2012年3月17日土曜日

30今どき破天荒な男たちの物語

このブログは一つの物語です。

初めての方は、1からお読み下さい。
今どき破天荒な男たちの物語の1 


 さて、その北さんであるが、彼も毎晩毎夜飲みへ行ってるわけじゃなく、愛犬を風呂に入れる時は早く帰宅するようであった。彼の家には“マミちゃん”と言う白毛の大きなメス犬が居た。この犬を彼は溺愛しているらしく、一緒に布団に入って寝たり風呂に入ったりしているという。三十独身の北さんに中野がよく、「北さんとあの犬はどうも怪しいですよ」と訳の分からんことを言っていた。


やはり山の先輩でクラブのリーダーでもある、喫茶スイスシャレーの山下の兄、山さんは「あの犬が居る限り北村は結婚できん。皆んなであの犬を毒殺する計画を立てよう」と、また訳の分からんことを真面目な顔をして言っていた。
 この山さんは建築業で、しばらく北村宅へ改装工事に行っていたが、工事が終わり玄関でお母さんが山下氏に代金を支払おうと札を床の上に置くと、奥から「ワンワン」とマミちゃんが走って来て、床の上のお札をバッ、と前足で押さえたという。恐ろしい犬である。家族同様に暮らしているので、家から金が出て行くのが分かるらしい。「もう、ああなったら人間と変わらん、しかし、痺れた!」と山さんは感心していた。

 この山さん、オカルト好きの弟とは性格が違い、完璧な唯物論者である。理論家であるがその理論というのが変化の激しい理論で、その変わり身の速さというか、柔軟性にとぶというか大変なものである。僕らは“奇想天外の山さん”と呼び、その名の通り何をするにも何も言わず、誰にも相談せず、奇想天外を思いっきりよくさっ、と行動に移す。チベット遠征の時も、見送りに来たと思ったら列車に乗って手を振っていた。仕事も若い時から四十回は変えたらしい。それも会社でなく職種をである。「仕事が趣味や遊びだと思えば、一生のうちにいろいろやって、これ程楽しいことはない」のだそうだ。これを子供が三人も居て実行するところが“並”じゃあない。この人の哲学というのは、「なんとかなる、とにかくやってみよう、それから考えよう!」ということらしい。山でも事業でもすべてそれでクリアーしてきたという。
 彼は日本でも有数の登山家で、その技量や体力は僕ら同年代グループのおよぶものではなく、ある冬皆んなで、穂高で冬山合宿したが彼が一番元気良く、雪の中を走り回っていた。
この合宿の時、テントの中で携帯用のガスコンロが灯かず、奇想天外の山さんがいじくっていたら漏れたガスにローソクの火が引火して、ぼっ、と山さんの持っているコンロから炎が吹き上がった。山さんが炎に包まれたように見えた。僕は寝袋の中に入っていたが、とっさに、テントが燃える、仲間が寝ている、と判断すると、テントを守るため寝袋から飛び跳ね燃え上がる炎と山さんもろともテントの外へ突き飛ばした。外には闇の雪面の上、赤々と燃え上がる炎と山さんのびっくりした顔があった。その後ろは奈落の絶壁であった。山さんもびっくりしたのだろう、帰って皆んなに「みつるに殺されかかった」としばらく言い廻っていた。





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