2012年3月6日火曜日

29今どき破天荒な男たちの物語

このブログは一つの物語です。

初めての方は、1からお読み下さい。
今どき破天荒な男たちの物語の1 



このおばさん、男まさりで体格も良く、酒を飲むと「うぉー うぉー」と叫ぶもんだから客がビビッてしまい、皆、カウンターにうつむいてチビチビやっている。カウンターの中でママが一人息巻いているのだがどちらが客だか分からない。また、このママ大層喧嘩っぽくて、生意気な客がいると「帰れ!」と言う。さらに生意気な客がいると、しぶしぶ帰る男を追いかけ「きゃぁ!」と満月を背に飛び蹴りをかましたりする。以前、別府の方でやはり小料理屋をやっていたらしいのだが、あんまり客と喧嘩するので近くの派出所からさんざん睨まれ、ついには少し殴られただけの男が次の日から身体中ぐるぐる包帯を巻いて松葉杖を突きながら、毎夜毎夜店へやって来て「ママにやられた、ママにやられたぁ・・・」とうめきながらカウンターに居続け、とうとうその店は潰れてしまったという。

僕も以前、店のカウンターで友人と飲んでいたら、よく来る酒ぐせの悪い男であろうか、ママが「もう飲ませんと言っただろうが、帰れ!」と怒鳴っていた。が、このサラリーマン風の若い男はさらに居続け、隣の客のカウンターに置いてあった煙草をサッと一本ぬく。するとそれを見たママが血相を変え、「こらっ!お前は何をするんかぁ!」とカウンターごしに、煙草を握っている指を氷を砕く時のピックでクッ、と突いた。すると、ぱっと男の指に赤い血が滲みポタリと煙草が落ちる。さらに、カウンターを廻り表に出て来たママは男の髪の毛をひん握り、「ガーン!」と床にひきずり倒す。そして再び「帰れ!帰らんか!」と怒鳴り、今まだヘラヘラ笑っている男の背広の襟をぐっ、とつかむとズルズルズルと店の外へ引きずり出していた。この間、他の客らは何事もなかったようにとぼけた顔をして酒をすすり、ママの機嫌がなおるのをじっと待つ。こういうことはこの店では日常茶飯事なのである。

 この恐ろしいママさん、実は気はやさしくてきっぷも良く、また面倒見が良いので、何をしてもすべての客から親しまれ慕われていた。常連客らは怒鳴られながらも飽きもせず、この店へ足を運ばせていた。また、このママには女性ファンが多く、店には若いOLらが多数たむろしていた。そして「ママぁ 今度結婚しようと思うんだけどぉ、わたしの彼見てくんなぁい」と言うと「よっしゃ!今度連れて来な」と言う。そして、彼女が彼を連れて来たその翌日「ねえママ、どうだったぁ?」「ありゃ 駄目じゃ、やめとき。他のを探しな!」と言う一言で“彼”の運命は決まるのである。
それ程ママは若い娘から信頼され、尊敬されていた。むろん、他の客らにも信望は厚かった。また、後家であり、子供のいないママは、僕らクラブの仲間を息子のように可愛がり面倒を見てくれた。僕もその一人であり、ここに登場する中野を始めとする友人ら、そして酒飲み北さんもその一人である。




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