このブログは一つの物語です。
この北さん、学生山岳部で鳴らした猛者で、ある山行の時、時間に遅れ走って来る仲間を列車に乗せようと、列車のデッキから駅のホームへ片足を踏ん張り、押し止めようとする駅員を振り切りしばらく列車を止めたという男である。
この男、かなり古めかしい登山用具を持っていて、山伏のような格好をして山へ行く。登攀具もかなり時代遅れで、消耗も激しかった。下降器といってザイルを伝って空中を下降する時に使う登攀具があるが、彼のは型も古く消耗しきっていたので摩擦抵抗が少なく「サァー」とザイルを滑り落ちるように下降して来る。あまり危ないので僕が「北さん、下降器買ったらどうかい?三千円位で有るよ。酒飲む金があったら僕と同じのを買ったらいい、命にかかわる問題やから」と言うと「もったいねぇ 飲んだほうがいい」と舌を出す。可愛くない男である。
ある時、この宴会続きのうちのクラブで、真面目に登攀をしようではないかと、ドキッとするような鋭い意見があがり、岩壁に取り付く前夜は酒は飲まない、飲んだらあかん、という難しい規則が創られた。
僕らは真面目にこの規則を守っていたが、ある山行の時酒飲みの北さんが同行するという。さて、北さんがこの規則を守れるかどうかにその夜の課題があった。「北さん、規則やから今夜は飲んだらあかんぜ、我慢出来るかい?眠れるかい?」と皆んなが心配して言うと、「わかっとる、わかっとる、一晩ぐらい飲まんでも死にゃせん!」と自信ありげに言うので、僕らは夜間車を飛ばし宮崎へと向かった。途中、腹がすいてきたので何処かで飯を食おうかということになった。丁度、大衆食堂らしき店が開いていたので僕らは店へ入り、親子丼やその他、各自めいめいのものを頼んで食っていると北さんが店の中をうろうろし始め、「ほぉー正中ってのはこんな字を書くのかぁ 知らなかった!」と腕組みをして感心していた。僕は、また飲みたくなったのじゃねぇか?と、じろっ、と彼を睨むが確かに彼の言ったように“焼酎”を“正中”と書いていた。僕も、ほぉー地方によって漢字が違うんだなぁーと感心しながら親子丼を食っていた。
そして皆んな食い終わり、各自めいめい代金を払っていると北さんが突然、「ちょっと三分程、車で待ってもらえんかのぉ」と言うので僕は酒を飲むのだなぁと彼を睨みつけ、何か言おうとすると、彼は子供のようななんとも情けない顔になっていた。その顔を見ると僕らも何も言えず、彼の方を見ようとせず黙って店を出た。道路反対車線の車の中から、僕らは店のガラスに透けて見える北さんをじーっと見ていると、彼はコップに注がれた正中を一分でぐいっと飲み干し、二分目でさらに二杯目をぐいっと飲み干し、後、一分で車まで走って来た。「ああ、悪い 悪い、待たしたのぉ」と息を切らしながら言う彼の顔は生き生きと輝いて紅潮していた。
この北さん、学生山岳部で鳴らした猛者で、ある山行の時、時間に遅れ走って来る仲間を列車に乗せようと、列車のデッキから駅のホームへ片足を踏ん張り、押し止めようとする駅員を振り切りしばらく列車を止めたという男である。
ある時、この宴会続きのうちのクラブで、真面目に登攀をしようではないかと、ドキッとするような鋭い意見があがり、岩壁に取り付く前夜は酒は飲まない、飲んだらあかん、という難しい規則が創られた。
僕らは真面目にこの規則を守っていたが、ある山行の時酒飲みの北さんが同行するという。さて、北さんがこの規則を守れるかどうかにその夜の課題があった。「北さん、規則やから今夜は飲んだらあかんぜ、我慢出来るかい?眠れるかい?」と皆んなが心配して言うと、「わかっとる、わかっとる、一晩ぐらい飲まんでも死にゃせん!」と自信ありげに言うので、僕らは夜間車を飛ばし宮崎へと向かった。途中、腹がすいてきたので何処かで飯を食おうかということになった。丁度、大衆食堂らしき店が開いていたので僕らは店へ入り、親子丼やその他、各自めいめいのものを頼んで食っていると北さんが店の中をうろうろし始め、「ほぉー正中ってのはこんな字を書くのかぁ 知らなかった!」と腕組みをして感心していた。僕は、また飲みたくなったのじゃねぇか?と、じろっ、と彼を睨むが確かに彼の言ったように“焼酎”を“正中”と書いていた。僕も、ほぉー地方によって漢字が違うんだなぁーと感心しながら親子丼を食っていた。
そして皆んな食い終わり、各自めいめい代金を払っていると北さんが突然、「ちょっと三分程、車で待ってもらえんかのぉ」と言うので僕は酒を飲むのだなぁと彼を睨みつけ、何か言おうとすると、彼は子供のようななんとも情けない顔になっていた。その顔を見ると僕らも何も言えず、彼の方を見ようとせず黙って店を出た。道路反対車線の車の中から、僕らは店のガラスに透けて見える北さんをじーっと見ていると、彼はコップに注がれた正中を一分でぐいっと飲み干し、二分目でさらに二杯目をぐいっと飲み干し、後、一分で車まで走って来た。「ああ、悪い 悪い、待たしたのぉ」と息を切らしながら言う彼の顔は生き生きと輝いて紅潮していた。

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