2011年9月21日水曜日

20今どき破天荒な男たちの物語

このブログは一つの物語です。

初めての方は、1からお読み下さい。
今どき破天荒な男たちの物語の1 


 彼のこの物をなくす、というのはキイだけじゃなく、実印も両手一杯に持っているという。おそらく通帳か印鑑証明のいる時々に探しきれず、実印を作るのであろう。そして、後で探したら出てくる、というパターンが続き、実印が両手一杯になったものと思われる。
 ある日、僕のうちに日本聖印という印のセールスマンが訪れて、占いをしてくれる、といので暇だったからいろいろと占ってもらっていた。彼は、人間の運命や一生は実印の印相に影響する、といって彼もそれを真剣に信じているようであった。
「俺りゃ、以前は象牙の立派な印鑑を持っていたが、以前、遠方から友人が訪ねて来るので銀行へ預金を下ろしに行って、二人で飲みに行ったが、翌朝気づいてみると、預金通帳もその印鑑も何処かへほったり投げてなくなっていた」と言うと、彼は真面目な顔をして「うむー、実印をなくしたんですか・・・・まずいですねぇ・・・・その頃何か悪いことはありませんでしたか?」と深刻な顔をして言うので「そういえばあまり良いことはなかったなぁ・・・」と呟くと「やっぱり!」と彼は自信ありげに頷き「それから実印をつくりましたか?」と尋ねる。「ああ、印鑑証明がいるんで、また、なくすともったいないので市役所の前で千円で作ってもらった」「それを今持ってますか?」「いや、欠けて半分しか写らなくなったから河へ捨てた」と答えると、印鑑屋は顔を真っ赤にしてびっくりすると「えっ!?欠けた!河に捨てた!」と聞き直した。僕はよほど悪いことをしたように言われるので、「いやぁ、僕の友だちなんか実印をこんなに持ってるよ」と両手を広げて膨らませると、彼はさらにびっくりして、「え、えっ!?実印を両手いっぱい持ってる人がいる?」と驚嘆した。そして「そ、その友だちの家を教えて下さい。彼はきっと不幸になる。あなたも友だちなら彼を救うと思って彼の家を教えて下さい」と必死で僕の腕をつかみ迫った。

 確かにこの頃、彼はヨーロッパ遠征へ行くため、歯科医院をやめ仕事に困っていた。彼のように山へ行くために何度も長期休暇をとり、あげくの果てにやめていったのでは、どこの歯科医院もなかなか受け入れてくれなかったのである。
 また彼はこの頃、同じクラブの産婦人科の医師と二人でヒマラヤ遠征を計画していた。間違ってうちのクラブに入った産婦人科の先生を三郎は、「この人は××××の先生です」と言って人に紹介していた。そして、このヒマラヤ遠征の費用を稼ぐため、彼は兵庫県の車両メーカーへ季節労働者として出稼ぎに行くことになった。しかし、彼はこの頃、あの捻挫以来のスキーに凝って関西近郊のゲレンデへよく出かけるようになっていたのでなかなか金も溜まらなかったようであった。
 それでも、ようやく溜めた金五十万を持って大阪の登山・スキー専門店へ行くことになった。彼はヒマラヤで履くコブラックのプラスチック靴や厳冬期用のウエアー装備一式を買いに行ったのである。コブラックというのはフランスのメーカーの名前で、当時、プラスチック登山靴では超一流のメーカーで、またこのコブラック社はスキー靴やスキー板のメーカーとしても超一流である。
 こうして彼は汗水流して働いて溜めた金を持って、「コブラック、コブラック」と呟きながら店へ入った。が、店を出てきた時はコブラックのスキー靴とコブラックのスキー板、その他高級なスキーウエア一式を持っている己れに気がついた、という。
 こうして、彼のヒマラヤ遠征は宙に飛び、トレーニングに励んでいた××××の先生も呆れてものが言えなかったという。




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