2011年8月25日木曜日

16今どき破天荒な男たちの物語

このブログは一つの物語です。

初めての方は、1からお読み下さい。
今どき破天荒な男たちの物語の1 


 彼らはこの頃、トレーニングに、猿の高崎山のゲレンデ(ロッククライミングの練習場)へ通っていたのだが、此処には猿の糞が大変多く、当然、登攀具やザイルにも付いている可能性は高い。このピカピカの高級レストランで、プーンと猿の糞の匂いがしたり、上品ぶった御婦人のハイヒールでも付いたりしたら此処の綺麗好きのマスターは何回も「ノォー」「ノォー」と声を張りあげ、叫ぶであろう光景であった。
 また、僕らが近郊の山で知り合った他の山岳会の女の娘らと話していると、その中の若い娘が布団会社の事務員をしていると言っていた。そこで、突然中野が、「それじゃシーツとか、いっぱいあるでしょう?」と尋ねていたので、ふーん中野はよく知っているなぁ、俺りゃ布団会社には布団しかないと思っていた、と感心していると、今度は「余ったのは有りますか?」と身を乗り出して聞いていた。は、はーん、病院のベッドで白いシーツの味をしめたのでタダで貰って、あの女郎布団にでも敷くつもりだな、と素早く僕は察しした。
 女の娘は、何故、山でこういうことを聞くのか?不思議そうな顔をしていたが、「余っているのは無いですが傷が付いたり、汚れたりして商品にならないのはありますけど・・・」と言うと、すかさず中野がさらに身を乗り出し「それ、貰えます!」と言うので、女の娘はいけないとも言えず口ごもりながら小さく「え、ええ」と呟いた。
そして、次の月曜日、彼女の職場に中野が現れた。
 彼女は慌てたが、なんとか上司に頼み、傷もののシーツを一枚わけてもらうと中野に手渡した。

 また、僕らが毎週のように通っていた宮崎の岩峰郡の所に見晴らしの良い展望台がある。観光客のよく訪れる展望台である。そこで中野がパンツ一枚のうっとうしい格好でうろうろしていると、人の良さそうな壮年の夫婦と娘がやって来て、展望台から見える突きとんがった岩峰を指して「やぁ、凄いですねぇ!あれを登ったんですか?」と中野に話かけると中野は胸を張って下唇を突き出し
「いやぁ、あんなものはどうってことない、大した岩峰じゃないですよ、あんなものは」と威張って、登っているクライマーが見える岩峰のルートを説明していた。彼らは「何処から来ているのですか?」と尋ねたので中野は「大分です」と答えると「それは遠い所から大変ですねぇ、うちは延岡の先の国道ぞいですから帰りにでも寄って休んでいかれたらいかがです・・・・」と軽い気持ちで言った。
 そして、中野ら仲間数人は、観光から帰り、我が家でほっと息を吐(つ)いている親子を襲った。
 こうして、日本に何の用事も仕事も女も無く、有るのは湿った四畳半の世界だけとなった中野はヨーロッパへ渡り、日本から訪れる友人らとパーティーを組み、また、現地の日本人クライマーらとパーティーを組んでヨーロッパアルプスの名だたる岩壁を狙うことになる。夏のシーズン以外はパリで鳥をさばいたり、さまざまなアルバイトをしながら丸四年間、日本に帰ることなく帰る旅費も理由もなく、ひたすら一人、異国の地で文明人に迷惑をかけ、
日本人の名を辱しめ大体の想像はつこう生活を、花の都パリで暮らす。
 その間、僕らは平和に、また少し退屈に暮らすことになる。彼のくわしい消息を知る者はいなかった。が、誰も彼を心配しなかった。





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