このブログは一つの物語です。
この追試がどうなったか知らぬが、彼は留年してヒマラヤへトレッキング(山の裾を歩く)へ行くと言いだした。三ヶ月の旅である。旅費、すべて含めて三十万、という。飛行機賃を除いたら、ほとんど残らない計算である。
その費用を稼ぐため、彼は土方のアルバイトに精を出した。ある日、彼のアパートへ行くと、電気も灯けず、パンツ一枚になってひっくり返り、うかぬ顔の中野が居た。
「おい、どうした?」
と尋ねると、
「今、土方から帰って来た」
と言い、何か機嫌悪げである。
「飯でも食いに行くか?」
と、誘うが、今日は疲れたから寝る、という。珍しいこともあるもんだなぁ、と帰ろうとすると、
「ああ、土方はトレーニングになるけど、気がめいるなぁ」と一言を言いため息をついていた。土方で、おっさんに怒られたか、コキ使われたのだろう。中野の土方姿が見えるようであった。
こうして、苦労して貯めた金と、僕が貸したペンタックスのカメラを持って、彼はネパールへと旅立った。
しかし、ヒマラヤでトレッキングを済ませた彼はインドで、有り金全部盗まれることになる。すっからぴんになった彼は、頭を丸め、茶色いシーツのような衣をまとうと、にせ托鉢僧になりすまし、本物の托鉢僧の後をついて廻り、貧しいインド人から米を貰っては食いつないでいた。
さらに、旨いものを食いたい、と思った彼は街角に座っている乞食の金を盗むことを計画した。どうせ、人からタダで貰ったものだ、少しぐらい分けてもらっても罰(ばち)は当たるまいと思ったのであろう。
彼は目くらで、いざり(立てない)の乞食をターゲットにすると、金をあげるふりをして乞食の顔を、じいー、と見ながら皿の中の金を握る。すると、乞食の片目が開(ひら)き、さらに両目が開(あ)き、くわっと睨みつける。
「うわっ!目くらが目を開けた」
と、びっくりした彼は、金を握って逃げようとするが、今度はいざりのはずの乞食が、ぐっ、と立ち上がり、素晴らしいスピードで追い駆けて来た。
「いやぁ、ひどい乞食やなぁ、詐欺や、乞食の詐欺や!」
と、怒っていたが、乞食の詐欺というのもあまり聞いたことがない。
こうして、しだいにボロボロとなった彼は、こんな事をいつまでしていても日本に帰れそうにない、と悟ると、今度は彼の大事にしていたペトリのカメラをインド人の金持ちをつかまえて、「ペンタックス、ペンタックス」と言って売りつけた。インド人は、メイド・イン・ジャパンのペトリのカメラを、メイド・イン・ジャパンのペンタックスと思い込み、日本ではペトリのカメラが二台買える値で買い取った。
「いやぁ、フィルムの入れ方も知らんでカメラ買いよったけど、ペトリは自動露出やないから、よう使いこなさんぜ。おっさんはペトリ、ペトリ・・・って呟いて悩んでたから、ペンタックスは日本語ではペトリって言うんや、と言うたら『ふーん』と言って本気にしよったけど、ペトリもペンタックスもよう分からんアホなインド人や」
と言っていたが、この時、彼は僕の貸していたペンタックスも持っていた。ペンタックスをよほど売ろうか?と思ったらしいが、持ち主が持ち主だけに、後で何を言われるか分からない、というのでこれは手離さなかったと言っていた。
写真もすべてペンタックスで撮っていたらしい。第一、今時ペトリみたいに露出計のついていないカメラも珍しく、ペトリというメーカーも最近聞いたことがない(潰れたのかな?)。
こうして、カメラを売った金で彼は機上の人となり、無事、日本へ帰ることが出来た。
その後、変えは普通の人間の顔をして、某コーヒー豆会社に就職した。大学では土木を専攻していた。
この追試がどうなったか知らぬが、彼は留年してヒマラヤへトレッキング(山の裾を歩く)へ行くと言いだした。三ヶ月の旅である。旅費、すべて含めて三十万、という。飛行機賃を除いたら、ほとんど残らない計算である。
その費用を稼ぐため、彼は土方のアルバイトに精を出した。ある日、彼のアパートへ行くと、電気も灯けず、パンツ一枚になってひっくり返り、うかぬ顔の中野が居た。
「おい、どうした?」
と尋ねると、
「今、土方から帰って来た」
と言い、何か機嫌悪げである。
「飯でも食いに行くか?」
と、誘うが、今日は疲れたから寝る、という。珍しいこともあるもんだなぁ、と帰ろうとすると、
「ああ、土方はトレーニングになるけど、気がめいるなぁ」と一言を言いため息をついていた。土方で、おっさんに怒られたか、コキ使われたのだろう。中野の土方姿が見えるようであった。
こうして、苦労して貯めた金と、僕が貸したペンタックスのカメラを持って、彼はネパールへと旅立った。
しかし、ヒマラヤでトレッキングを済ませた彼はインドで、有り金全部盗まれることになる。すっからぴんになった彼は、頭を丸め、茶色いシーツのような衣をまとうと、にせ托鉢僧になりすまし、本物の托鉢僧の後をついて廻り、貧しいインド人から米を貰っては食いつないでいた。
さらに、旨いものを食いたい、と思った彼は街角に座っている乞食の金を盗むことを計画した。どうせ、人からタダで貰ったものだ、少しぐらい分けてもらっても罰(ばち)は当たるまいと思ったのであろう。
彼は目くらで、いざり(立てない)の乞食をターゲットにすると、金をあげるふりをして乞食の顔を、じいー、と見ながら皿の中の金を握る。すると、乞食の片目が開(ひら)き、さらに両目が開(あ)き、くわっと睨みつける。
「うわっ!目くらが目を開けた」
と、びっくりした彼は、金を握って逃げようとするが、今度はいざりのはずの乞食が、ぐっ、と立ち上がり、素晴らしいスピードで追い駆けて来た。
「いやぁ、ひどい乞食やなぁ、詐欺や、乞食の詐欺や!」
と、怒っていたが、乞食の詐欺というのもあまり聞いたことがない。
こうして、しだいにボロボロとなった彼は、こんな事をいつまでしていても日本に帰れそうにない、と悟ると、今度は彼の大事にしていたペトリのカメラをインド人の金持ちをつかまえて、「ペンタックス、ペンタックス」と言って売りつけた。インド人は、メイド・イン・ジャパンのペトリのカメラを、メイド・イン・ジャパンのペンタックスと思い込み、日本ではペトリのカメラが二台買える値で買い取った。
「いやぁ、フィルムの入れ方も知らんでカメラ買いよったけど、ペトリは自動露出やないから、よう使いこなさんぜ。おっさんはペトリ、ペトリ・・・って呟いて悩んでたから、ペンタックスは日本語ではペトリって言うんや、と言うたら『ふーん』と言って本気にしよったけど、ペトリもペンタックスもよう分からんアホなインド人や」
と言っていたが、この時、彼は僕の貸していたペンタックスも持っていた。ペンタックスをよほど売ろうか?と思ったらしいが、持ち主が持ち主だけに、後で何を言われるか分からない、というのでこれは手離さなかったと言っていた。
写真もすべてペンタックスで撮っていたらしい。第一、今時ペトリみたいに露出計のついていないカメラも珍しく、ペトリというメーカーも最近聞いたことがない(潰れたのかな?)。
こうして、カメラを売った金で彼は機上の人となり、無事、日本へ帰ることが出来た。
その後、変えは普通の人間の顔をして、某コーヒー豆会社に就職した。大学では土木を専攻していた。

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