2013年1月16日水曜日

65今どき破天荒な男達の物語


 また、彼は飯を食ったり茶を飲んだりしている時、ふいに
「あっ!しまったぁ!」
と大声で叫んで残念がるので僕はびっくりして
「どうした?」
と尋ねると
「いやぁ、今、良いことを思い付いとったのに忘れてしもうたぁ、紙に書いときゃ良かった。またや・・・・」
と残念がる。
「わはは。お前はアラブ人みたいな奴やなぁ。ターバン巻かなきゃ、皆、頭から出て行くぞ」
と笑うと彼はむすっとして
「あんた、昔、アラブで人を殺したやろう?」
と僕の顔をじいーと見て言う。レストランの若い客の視線が、くっ、と僕に来る。
「お前、人聞きの悪い事言うなぁ・・・何故、俺がアラブ人を殺さなきゃならんのか?」
「いやぁ・・・確か昔、そういうのを聞いたことがある。あんた、殺したやろう?」
と再び刑事のような顔をして、人を透かすような目をして僕を見る。
「あれは・・・俺じゃなく、そういう話を聞いたっていうだけのことじゃ!」
「ほんまかい?」
とまた怪しげな顔をして僕を見る。

 確かに、僕がヨーロッパ旅行中に知り合った日本人旅行者がアフガニスタンで強盗に襲われ、格闘になり、紐でアラブ人の首を絞めて殺して来た、という話を中野に聞かせたことがあったがそれを僕と勘違いしているようだった。
 僕も若い頃から外国をさんざん暴れまわってきたが人まで殺した覚えはない。その僕と中野が、ある日山の裾でペンションをしている、元スイスシャレーの山下夫婦の所へ夜遅く尋ねて行った。
 その時もやはり中野の就職の世話で、近くに彼を連れて行き、そこの知り合いのオーナーから御馳走になった帰りであった。此処まで来て素通りするのもなんだからと、夜、二人でペンションの大きな犬に吠えられながら訪ねて行くと、夫婦は椅子に腰掛けてテレビを見ていた。
「おお、今晩は」
と、中野と二人で客の居ないペンションに上がり込む。

 ああ、みっちゃんと中野か、よう来たなぁと立ち上がりビールでも持って来るかと思っていたら、夫婦とも知らん顔をしてテレビを見ている。いつもと違い、愛想が全くない。どうしたんだろう・・・?と、中野と二人で顔を見合わせ、何か悪い事でもしたかなぁ・・・?と考える。そこへ山下が、しらっーと振り向き無表情の顔で
「何か、用かい?」
と白けた口調で言う。奥さんも不安そうに見ている。
「友だちがわざわざ訪ねて来たのに何か用かい?はないだろう」
と言うと、山下は無表情さをひとつも変えず何か警戒したように
「みっちゃん、あんたさぶちゃんや洋ちゃんとうちに来たことはあるが、中野と来るのは今日が初めてやろう。相乗効果ということもあるからな!」
と素早く言うと、再び無表情にテレビの方を向いた。奥さんも緊張している。
 夜更けに、中野と僕が揃ってこんな山奥に現れたのはきっと何かある、何をたくらんでるのだろう・・・?と山下夫婦は警戒したのである。
 あまり二人の機嫌が悪いので、僕と中野はそそくさとペンションを引き上げたが、相乗効果とは山下もひどいことを言うもんである。

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