そこでオカルト好きの山下のペンションに「リーン」と電話が入り
「ああ、中野やけど、今から二十名程団体客を回してあげるからね・・・」
と威張って言う。慌てて奥さんが
「うちはペンションだから十二、三人位しか泊まれないし、今日は連休だからうちもいっぱいですよ」
と言うと
「そうかなぁ・・・しょうがないなぁ・・・何処か泊まれるところ知らんですか?今、団体が入ったんやけれどこっちも満員であふれとる」
と言って受話器を置く。
中野はホテルとペンションを同じように考えているらしいが、泊まり方も客層も全く異質のものであるということを知らないようであった。
そして、何日かして、再び山下のペンションに電話が入る。
「ああ、中野やけど、今から団体客を四十名程連れていくけどいいかい?」
と言う。奥さんはもう何も言おうとはしなかった。
僕らはよくこのペンションで彼らと彼らの友人らと酒を飲んだりするが、この友人の中で、湯布院で非常に流行っていて、旅館や食堂を営んでいる所に勤めている友人が居て、酒を飲みながら彼が
「中野は変わったやっちゃなぁ・・・しかしあいつは礼儀を知らん」
と言うのでどうしたのか?と彼の話を聞いてみると、ある日突然中野から電話があって
「明日の日曜日の昼に客を五十人程連れて行くから、そこの食堂に予約してくれんかい?一人二千円でどうや・・・」
と言うのである。
彼はそこの喫茶店を任されていたが食堂の方は別である。それに此処は非常に客が多く、休日の食堂は行列が並び、それに高級な料理であるため昼食でも一人一万円、落としていくこともざらであった。そこを、丁度昼食時に占領され、一人二千円というのは割りの会わぬ無茶苦茶な話である。それでも、中野も困るだろうと思って食堂へ行き、何度も頭を下げて予約を取ってやった。そして、天気の良い日曜日、その上品な食堂は中野が引率する農協の団体さんが貸り切って外からの客は入れなかった。
店にえらく迷惑をかけて、謝って歩いた彼は
「おかしいなぁ・・・?これだけしてあげたのに中野から何の礼の電話もない。菓子箱ひとつ持って来ても罰は当たらぬはずだが・・・」
と言うのである。それを聞いた僕は
「あはは。中野はあんたのことを『せっかく客を世話してやって礼のひとつも言って来ん。菓子箱ぐらい持って来ても良さそうなものに・・・無礼な奴だ!』と言って、今頃何処かで此処みたいに酒を飲みながら『あいつは礼儀を知らん!』とか言っとるかも知れんぞ」
と言うと、山下ら夫婦と彼は顔を見合わせ、そうか?という顔をしたが、信じられん、という顔もした。
「もし、そうやとしたら、あいつはとんでもない奴やなぁ」
と彼は言っていたが、彼はまだ中野をよく知らぬようであった。
0 件のコメント:
コメントを投稿