このブログは一つの物語です。
彼は非常におもしろい男で、会話をする時、一対一じゃないと話せないらしく、二人で話していて誰か加わるとふっと知らん顔をしてポケットから文庫本を出して読み出す。こういう性格だから仕事も転々とし、印刷所の職工をしたりしながらほそぼそと勉強していた。
彼は若い頃、例の統一教会に入り、大学を中退して恋もせず、仕事もせず、ひたすら訳の分からん布教活動をして青春を棒に振り、以後、東洋哲学を非常に熱心に研究していた。
ある真夜中、彼はぐーっと考え込んでいたものが、ふっと解き放され「はっ!」と悟りを開いた。天地万物の動きが見え、世界の真理が分かった。
「そうか!そうだったのかぁ!」
と彼は膝を叩くと、四畳半の薄汚い部屋がキラキラと宮殿のように輝き、身体が浮き上がり、今にも白馬に跨(またが)り雲上を駆けるようであった。そしてその夜は興奮して眠れず、ぺっちゃんこの布団の中で、「明日からは素晴らしい世界が待っている、俺は、世の中の真理、真理が分かったんだ!」と、長い間の苦労を思い浮かべ涙を滲ませた。が、しかし、翌朝彼が起きてみると、な、なんとしたことだ!世の中がひとつも変わってない。あれ程光り輝いて見えた部屋も汚く散らかっている。さらに驚いたのは、あれだけ苦労して悟りを開き世の中の真理、天地万物の動きをつかんだ自分が、また今日もあの薄暗い印刷所へ行き、活字を拾わなければならないということであった。そして、今日は家賃の支払日だ。ああ・・・金がない。
彼は、真理をつかむことと自分の生活とは全く関係のないことをさらに悟ると、その後はあまり熱心に哲学を研究しなくなったという。また、彼は一時仕事がなく、また片思いの女性にふられ、かなり落ち込んでいた。丁度その頃、僕は占いに凝っていて、よく当たる知り合いの女性占い師からいろいろ聞いてはおもしろがっていた。ある日、友人のところへ行くと哲学者竹さんが来ていたので
「おい、えらく元気ないじゃないか、占いでもしてもらったらどうだい?未来がパァーと明るくなるかも知れないぜ!」
と、落ち込んでいる彼を元気づけようとその占い師の所へ行くように勧めた。
「うん・・・そうだなぁ、なにか未来がパァーと開けるきっかけが掴めるかも知れんなぁ」
「そうだ、そうだ」
「うん、ところで和田君、占い料貸してくれんか?」
「ああ、竹さんの未来の為だ、貸してあげるよ」
と、僕は気前よく千円彼に渡すと、いそいそと出かけて行く彼の背を眺め「うん、うん、」と頷いていた。
その後、彼に会った時「どうだった?」と期待げに尋ねてみると「いやぁ、それが当たってねぇ・・・」と彼が頭を掻きながら答えるので「当たった!そりゃ良かった。で、何て言ってた?」と尋ね返すと「いやぁ、それが当たるも当たるも、バチバチ当たって!」と声にだんだん力が入りだす。なにか自棄(やけ)を起こしているようでもあった。
「それで、良いこと言ってくれた?」と尋ねると
「いやぁもう、言う事すべて悪い事ばかりで、仕事のことも女のことも、それがよく知ってるように当たってるんや。おまけに未来はさらに悪くなるって言われ、これ以上どう悪くなるのか?と思うと腹が立つどころか馬鹿馬鹿しくなって、おかしくておかしくて笑いだして、家に帰る途中、別大国道をずぅーと口を開いて笑いながら帰って行ったわぁ、あまり笑い過ぎて顎が痛くなったわぁ」と言っていた。
別大国道とは別府と大分を結ぶ、美しい海岸線に走る景色の良い道路で、彼はそこを例の古い軽自動車(今は幻のホンダ・エヌコロ)に乗って、口を開け笑いながら家へ帰って行ったのである。空の上から別大国道をあの茶色っぽい軽自動車に乗って、自棄笑いをしながらハンドルを握る竹さんの姿が見えるようであった。
彼は非常におもしろい男で、会話をする時、一対一じゃないと話せないらしく、二人で話していて誰か加わるとふっと知らん顔をしてポケットから文庫本を出して読み出す。こういう性格だから仕事も転々とし、印刷所の職工をしたりしながらほそぼそと勉強していた。
彼は若い頃、例の統一教会に入り、大学を中退して恋もせず、仕事もせず、ひたすら訳の分からん布教活動をして青春を棒に振り、以後、東洋哲学を非常に熱心に研究していた。
ある真夜中、彼はぐーっと考え込んでいたものが、ふっと解き放され「はっ!」と悟りを開いた。天地万物の動きが見え、世界の真理が分かった。
「そうか!そうだったのかぁ!」
と彼は膝を叩くと、四畳半の薄汚い部屋がキラキラと宮殿のように輝き、身体が浮き上がり、今にも白馬に跨(またが)り雲上を駆けるようであった。そしてその夜は興奮して眠れず、ぺっちゃんこの布団の中で、「明日からは素晴らしい世界が待っている、俺は、世の中の真理、真理が分かったんだ!」と、長い間の苦労を思い浮かべ涙を滲ませた。が、しかし、翌朝彼が起きてみると、な、なんとしたことだ!世の中がひとつも変わってない。あれ程光り輝いて見えた部屋も汚く散らかっている。さらに驚いたのは、あれだけ苦労して悟りを開き世の中の真理、天地万物の動きをつかんだ自分が、また今日もあの薄暗い印刷所へ行き、活字を拾わなければならないということであった。そして、今日は家賃の支払日だ。ああ・・・金がない。
彼は、真理をつかむことと自分の生活とは全く関係のないことをさらに悟ると、その後はあまり熱心に哲学を研究しなくなったという。また、彼は一時仕事がなく、また片思いの女性にふられ、かなり落ち込んでいた。丁度その頃、僕は占いに凝っていて、よく当たる知り合いの女性占い師からいろいろ聞いてはおもしろがっていた。ある日、友人のところへ行くと哲学者竹さんが来ていたので
「おい、えらく元気ないじゃないか、占いでもしてもらったらどうだい?未来がパァーと明るくなるかも知れないぜ!」
と、落ち込んでいる彼を元気づけようとその占い師の所へ行くように勧めた。
「うん・・・そうだなぁ、なにか未来がパァーと開けるきっかけが掴めるかも知れんなぁ」
「そうだ、そうだ」
「うん、ところで和田君、占い料貸してくれんか?」
「ああ、竹さんの未来の為だ、貸してあげるよ」
と、僕は気前よく千円彼に渡すと、いそいそと出かけて行く彼の背を眺め「うん、うん、」と頷いていた。
その後、彼に会った時「どうだった?」と期待げに尋ねてみると「いやぁ、それが当たってねぇ・・・」と彼が頭を掻きながら答えるので「当たった!そりゃ良かった。で、何て言ってた?」と尋ね返すと「いやぁ、それが当たるも当たるも、バチバチ当たって!」と声にだんだん力が入りだす。なにか自棄(やけ)を起こしているようでもあった。
「いやぁもう、言う事すべて悪い事ばかりで、仕事のことも女のことも、それがよく知ってるように当たってるんや。おまけに未来はさらに悪くなるって言われ、これ以上どう悪くなるのか?と思うと腹が立つどころか馬鹿馬鹿しくなって、おかしくておかしくて笑いだして、家に帰る途中、別大国道をずぅーと口を開いて笑いながら帰って行ったわぁ、あまり笑い過ぎて顎が痛くなったわぁ」と言っていた。
別大国道とは別府と大分を結ぶ、美しい海岸線に走る景色の良い道路で、彼はそこを例の古い軽自動車(今は幻のホンダ・エヌコロ)に乗って、口を開け笑いながら家へ帰って行ったのである。空の上から別大国道をあの茶色っぽい軽自動車に乗って、自棄笑いをしながらハンドルを握る竹さんの姿が見えるようであった。

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