駅で登山用具をジャポンへ送り、寝袋をサックにほうり込むと、茶色いおもちゃのような登山電車に乗って一路、グリンデルワルトへと向った。
雪渓の残る警告を渡り、絶景の大パノラマをぬけ、アルプスの登山電車はスイスへと入る。
グリンデルワルトは観光客が多かった。彼らが登りに行ったアイガーは“デン”と口を開け街を見降していた。
赤や黄の高山植物が錯乱する高原をケーブルが音をたてて登ってゆく。目の前にショートカットの少女がアルプス犬とともに、おとなしく座っている。
天気なら登ったであろう黒と白の大岩壁を見上げながら、三回、山の名を呟いた。彼らの姿はなかった。
アイガー北壁
ビールを飲みながら高級な観光客に紛れて街を下り、再び電車に乗り込むと、高原と森の湖をぬけ、マッターホルンの村、ツェルマットへと滑り込んだ。
村で食料とビールを買い込むと聳え立つ雄々とマッターホルンの峰を目指して歩き始めた。窓に花々を飾ったログハウスを過ぎると高原だ。ガランガランと音がする。牛の耳に付けた鈴が鳴る。数十頭の首の鈴が別々に鳴り響き、重なり合うリズムが快ち良いメロディーとなって草原に響き渡る。
蒼い渓谷をぬけるとマッターホルンの白い姿が飛び込んできた。山袖が広く、突き上った三角形の峰が異様に細く見える美しい山である。
マッターホルン
山の麓に着くと、あまりの絶景、快ち良さにビールをぐいぐい飲みまくり、気がついたら暗くなりかけていた。
こうして憧れの峰の懐に抱れると、ざぁーと山を下り、ミラノ経由マドリッド行きTEEへと乗り込んだ。
僕はユーレルパスという西欧券内では等級一等も含め、すべてパスという定期券を買っていた。が、スタイルといえば髪は伸びほうだい。煮染めたようなTシャツとGパン、背には年期の入った赤いザック、腕はまだバンダナでくくり首から下げ、どう見ても鈍行二等という姿であった。
ザックを担ぎホームからデッキに入ろうとすると、背中が引っぱられる。何かと思ったら、駅員が、
「ティケット、ティケット」
と、汚いザックを握って叫んでいる。
「うるさいなぁ・・・」
と、パス券を見せると、不満そうな顔をする。
「気分が悪いなぁ・・・」
と列車の中へ入ると、今度はブヨブヨの金髪のおばはんが、キンギラの指輪をいっぱい付けた人差し指を立てて、
「ファーストクラス、ファーストクラス」
と、わめく。
いらぬお世話だ、と再びパス券を見せると、やはり不満そうな顔をして、電燈に当てて透かして見ていた。
地中海のブルーの海を眺めながら、快ち良くビールを飲む。TEEは流れる景色を切り切り、もの凄いスピードでひたすら陽光が輝く南国、スペインを目指した。


0 件のコメント:
コメントを投稿