オカルト好きの山下の兄、山下氏は山さんと呼び易く呼び、その弟の山下は日頃は「チャンキ」という、あだながある。この名の由来は神秘的で不明である。
こうして
「おーい さぶちゃん、白菜を切ってくれ」
「おい洋ちゃん、ビールを開けてくれ」
とか言って、僕らの宴会は盛り上がる。ひさしぶりに皆んな揃って楽しそうである。
十年の歳月は僕らには透明であった。皆、二十代前半の頃とひとつも変わらず、笑ったり笑
ったり騒いだりしていた。
次の、ぱくん、と晴れた日曜日、僕らは登攀を開始するべくだらだらと起きる。
陽がかなり昇ったテントの前は車や人が行き来していたが、その道路脇の昨夜の宴会の跡はそれはすさまじいものであった。なにもかも食いちらかして、四方八方、食いかけの食料やコッヘル、ビール瓶なぞが散乱していた。
目を覚ました奇想天外の山さんがテントの中で、
「おい、起きろ!今日は天気が良いぞ、今日は登るぞ!おい、俺は誰と組むのか?」
とか盛んに喋りながらテントから外へ出るが、
「あっ!」
と言って口を閉じた。
どうしたんだろう・・・?と思って見ているとしばらくして
「あまりの恥かしさで声が出なくなった」
と言う。
散乱した宴会の跡を、他のクライマーらが避けるようにして歩いていた。
0 件のコメント:
コメントを投稿