このブログは一つの物語です。
キャプライトを灯け、夜間登攀をしていた最中(さなか)、僕の胸に付けていたライトが何にかの拍子で、バチン、と外れ、キラキラと輝きながら暗闇の中へ吸い込まれて行った。二人とも「はっ!」と息をしただけで声は出なかったが、それは美しいものであった。
そして、キャプライトをなくした僕はトップを山下に行ってもらい、闇の中、オーバーハングを手さぐりで座頭市のような格好をして登攀を続けた。新月であった。
こうして、真夜中の何時間かの悪戦苦闘の後、僕らは岩壁をぬけ山を下って来たが、あたりはもう、白(し)ら白(じ)らとしていた。こんなに苦しんだから冷たいビールでも飲まなきゃ、と二人でバイクを飛ばし延岡の街へ出るが、この街は不思議なことに幾ら探しても酒類の自販機がない。しょうがなく僕らは確かに酒と書いた甘酒を自販機から買うと、二人で乾杯をした。
僕が悲惨な目に会うのは岩登りだけじゃない。夏に沢登りに行った時、いつもより水量が多く渡河しにくかった。そこで、僕が仲間から蔓(つる)を持ってもらい急流を渡河するのだが、河の真ん中あたりに行った時、ぬれっと深みにはまり、どぼん!と頭から水中に沈み込み、ザアーザアーと水流にもまれ流された。急流に流されながら、あっぷあっぷと口を開け、友人らを見ると皆、腹を抱えて笑い転げていた。僕が泳げたから良かったものの皆んな冷たい奴らだ、とびしょ濡れになって文句を言おうとしたら、船乗りの洋一が
「おーい 今日は山登りに来たんで泳ぎに来たんじゃねえぞぉ」と笑いを堪えながら言うので、もう何も言わなかった。皆、僕が泳ぎが達者なのを知っているのだ。
こうして僕はびちょびちょの服を着て沢から谷へと登っていったが、これが暑い盛りだったから良かったものの寒い時では堪らない。
厳冬期になると、暖かい九州でも山の方は幾つも沢や滝が凍る。僕らはこれを楽しみに登りに行くのだが、ある雪の多い冬、いつものように滝を登ろうと沢をつめて行っていた。そして道中、まだ完全に凍っていない滝壺に歯科技工師の三郎が足を踏み入れた。すると、バリッと滝壺に張ってある氷が真っ二つに割れ「あわわわ」と三郎が滝壺の中に消えていく。それを助けようと、他の友人がピッケルを差し伸べようとするが、彼の立つ氷もバリバリッと真っ二つに割れ、彼も「わわわ」と凍りつくような水の中に沈んでゆく。悲惨である。
僕らはなんとかかんとか彼らを引き上げたが、三郎愛用のアルプスを登った思い出のピッケルは滝壺の中へ沈んだままとなってしまった。
キャプライトを灯け、夜間登攀をしていた最中(さなか)、僕の胸に付けていたライトが何にかの拍子で、バチン、と外れ、キラキラと輝きながら暗闇の中へ吸い込まれて行った。二人とも「はっ!」と息をしただけで声は出なかったが、それは美しいものであった。
そして、キャプライトをなくした僕はトップを山下に行ってもらい、闇の中、オーバーハングを手さぐりで座頭市のような格好をして登攀を続けた。新月であった。
こうして、真夜中の何時間かの悪戦苦闘の後、僕らは岩壁をぬけ山を下って来たが、あたりはもう、白(し)ら白(じ)らとしていた。こんなに苦しんだから冷たいビールでも飲まなきゃ、と二人でバイクを飛ばし延岡の街へ出るが、この街は不思議なことに幾ら探しても酒類の自販機がない。しょうがなく僕らは確かに酒と書いた甘酒を自販機から買うと、二人で乾杯をした。
僕が悲惨な目に会うのは岩登りだけじゃない。夏に沢登りに行った時、いつもより水量が多く渡河しにくかった。そこで、僕が仲間から蔓(つる)を持ってもらい急流を渡河するのだが、河の真ん中あたりに行った時、ぬれっと深みにはまり、どぼん!と頭から水中に沈み込み、ザアーザアーと水流にもまれ流された。急流に流されながら、あっぷあっぷと口を開け、友人らを見ると皆、腹を抱えて笑い転げていた。僕が泳げたから良かったものの皆んな冷たい奴らだ、とびしょ濡れになって文句を言おうとしたら、船乗りの洋一が
「おーい 今日は山登りに来たんで泳ぎに来たんじゃねえぞぉ」と笑いを堪えながら言うので、もう何も言わなかった。皆、僕が泳ぎが達者なのを知っているのだ。
こうして僕はびちょびちょの服を着て沢から谷へと登っていったが、これが暑い盛りだったから良かったものの寒い時では堪らない。
厳冬期になると、暖かい九州でも山の方は幾つも沢や滝が凍る。僕らはこれを楽しみに登りに行くのだが、ある雪の多い冬、いつものように滝を登ろうと沢をつめて行っていた。そして道中、まだ完全に凍っていない滝壺に歯科技工師の三郎が足を踏み入れた。すると、バリッと滝壺に張ってある氷が真っ二つに割れ「あわわわ」と三郎が滝壺の中に消えていく。それを助けようと、他の友人がピッケルを差し伸べようとするが、彼の立つ氷もバリバリッと真っ二つに割れ、彼も「わわわ」と凍りつくような水の中に沈んでゆく。悲惨である。
僕らはなんとかかんとか彼らを引き上げたが、三郎愛用のアルプスを登った思い出のピッケルは滝壺の中へ沈んだままとなってしまった。

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